「一平が頑張っとるやないか-! おまえら、なんとかせんかー!」。闘将・星野仙一ならそう言って扇風機をガシャン。ベンチの背中にドカンとキック。座っている小柄な選手がフワッと宙に浮く-。そんな試合だった。

小川一平は鬼気迫る投球だった。今季は先発でスタートしながら救援陣を救うため、中継ぎに配置転換。しかしコロナ禍の影響により先発に戻り、踏ん張っている。7回のピンチを切り抜けたときは思わず拍手してしまいそうになった。

最後は浜地真澄がソトに1発を食らったが責められない。ハッキリ言ってこの流れなら仕方がないのだ。この敗戦は点を取れない打線に理由があった。

阪神打線が抱える悩み、課題は6回に象徴されていたと思う。先頭打者の2番・佐藤輝明が右前打。無死一塁で3番・近本光司に回った。期待されたが空振り三振。さらに続く4番・大山悠輔が右打ちで二ゴロ併殺に倒れた。

まず打順だ。前日は佐藤輝が2番で調子を上げていると書いた。同時にうまくいっていないこともある。近本だ。1番を打っていたときは2割9分5厘だった打率が3番になって1割6分に落ち込んでいる。

そして大山だ。4番になって1割4分3厘。出塁率は2割8厘だ。7番を打っていた試合では3割8厘を打っていた。そもそも今季は4番は佐藤輝でスタートしたはず。うまくつながらないための打線改造は苦肉の策だがチームにとっても大山個人にとっても奏功しているとは言いがたい。

選手だけではない。ここは何かしら仕掛けてほしい場面だった。佐藤輝は前日も盗塁している。近本も不振だし、盗塁でもエンドランでも動かしてほしい。そんな気はした。作戦遂行はベンチの仕事。考えはあるのだろうが、あまりの苦境に固まっているように感じてしまう。

固まるのなら佐藤輝は4番に戻してはどうか。他に好調な打者がいないので簡単ではないが佐藤輝の前に走者をためるしか今は得点できる気がしない。それにしても以前の足を絡める攻撃が鳴りを潜めているのは本当にどうしたことか。

「普通にやっても普通に点が入るという感じでは現状、ないんでね。なんとかやろうとはしているんだけどね」。指揮官・矢野燿大はそんな話をしたようだが見ている側にそれが分かるように戦ってほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

DeNA対阪神 10回裏DeNA無死、ソトに右越えサヨナラ本塁打を浴び、喜ぶDeNAナインを背に引き揚げる阪神浜地。左は肩に手をやり声をかける佐藤輝(撮影・前田充)
DeNA対阪神 10回裏DeNA無死、ソトに右越えサヨナラ本塁打を浴び、喜ぶDeNAナインを背に引き揚げる阪神浜地。左は肩に手をやり声をかける佐藤輝(撮影・前田充)