大リーグ・カブスの鈴木誠也はすごい。負傷者リストから復帰して2試合連続本塁打か。誠也が12年のドラフト2位で広島に入団しているのは誰でも知っている。そのとき対抗馬として名前が挙がっていたのが光星学院(当時)の北條史也だった。

北條は阪神が先に同2位で指名したので迷うことはなかったがリストの段階で広島は同じ右打者として比較していた。甲子園での活躍は北條が上。評価も分かれていたという。最終的に「どちらが俊足か」というポイントで広島は誠也の指名を決めた。広島3連覇監督・緒方孝市(日刊スポーツ評論家)に聞いた話だ。

その北條がこの広島戦で働いた。2点を追う4回2死満塁。前の打者・大山悠輔はほとんど歩かされた格好。ここで指揮官・矢野燿大が左腕・床田寛樹対策で6番に置いていた北條に回った。しかし北條は今季ここまで4安打1打点。虎党には期待と不安の思いが入り交じったことだろう。

だが打った。平行カウントから152キロのインハイ真っすぐを振り抜いた打球はドン詰まりながら左前に落ちた。貴重な2点適時打だ。続く山本泰寛が勝ち越し打を放ち、一気に逆転成功。得点したイニングはこの回だけだったので、まさに集中攻撃だった。矢野も大喜びである。

そして独断で言わせてもらえば、この日、北條が打ったことにはちょっとした意味があると思う。この日の先発投手、当初は藤浪晋太郎の予定だった。しかし前日の中止で西勇輝がスライド登板。藤浪の登板は消えた。来週には抹消されていた先発スタッフが戻るため、藤浪の先発機会がいつになるのかは未定だ。

藤浪と北條は12年のドラフト1、2位。ともに「甲子園のスター」として阪神に入団している。そろって大阪出身だ。だが藤浪はいうまでもなく、北條も期待されながら真価を発揮できずに10年目を迎えているのが現状だろう。

主役の座は他の選手に明け渡している格好だが、それでも、2人にはまだやれるという可能性を感じる。藤浪が我慢を強いられた日に北條が脚光を浴びた。なんとなく野球の、いや「甲子園の神様」が差配したような気もするのだ。

もちろん、この2人だけではない。出番が減っている他の選手も「オレたちもやるぞ。チャンスよ、来い」という気持ちを忘れずにいてほしい。(敬称略)【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「虎だ虎だ虎になれ!」)

阪神対広島 ヒーローインタビューで質問に答える北條(中央)、左は西勇、右は山本(代表撮影)
阪神対広島 ヒーローインタビューで質問に答える北條(中央)、左は西勇、右は山本(代表撮影)