史上最北端の優勝は、ならなかった。全国最多37度目の出場で初の決勝へ進んだ北海(南北海道)は、初戦から1人で投げてきたエース大西健斗(3年)が4回途中でノックアウト。5安打5失点(自責4)で、後輩へマウンドを譲った。V6岡田准一似で話題になったイケメンは、負けてもすがすがしい表情で“銀メダル”に胸を張った。

 敗者のエースは穏やかな笑みをたたえて、喜びに沸く相手チームを見つめた。「負けて悔しいけど、この仲間で野球ができて良かった。最低で最高のチームだった」。昨秋、新チーム始動直後には札幌地区予選の初戦で敗退。どん底から全国決勝の舞台へとはい上がった仲間たちが、主将として誇らしかった。

 3回戦の日南学園(宮崎)戦から、右肘は悲鳴を上げていた。キャッチボールもできず、毎回、痛み止めの薬を飲んで試合に臨んだ。4戦連続完投で迎えた決勝戦。1点リードの4回無死満塁、一塁線に切れた打球を一塁手が触ったと判定されたことを引き金に、この回大量5失点。途中降板し「何が起こるか分からないのが甲子園。割り切って投げようと思ったけど、続く打者を抑えられなかった」と自分を責めた。

 幼い頃、両親に連れられオーストラリアやハワイを旅した。英語塾にも通い、将来の夢について「商社マンになって海外を飛び回りたい」と、家族に語ったりもした。野球を職業にするなど、考えたこともなかったが、その夢は今、変わりつつある。大学進学予定で「野球は将来もずっと続けていきたい。(進路に)悩んだけど、やればできるんだと分かったので」。甲子園で投げた527球が、自信につながった。

 三塁側のアルプススタンドへ一礼した際、思わずこぼれた涙を、慌ててぬぐい笑顔で隠した。「最後は笑顔で終わりたかったから。今はやり切ったという思いだけ」。端正な顔が、甲子園に映えた。【中島宙恵】