<高校野球神奈川大会:桐光学園11-4桐蔭学園>◇29日◇決勝◇横浜スタジアム

 神奈川の「ドクターK」が、5年ぶりとなる夢舞台の切符をつかんだ。桐光学園・松井裕樹投手(2年)が15三振を奪う熱投で、桐蔭学園との“光蔭”対決に勝利。6回に右足甲へ死球を受けたが、気力で151球を投げきった。今大会は2回戦から6試合713球、46回1/3を投げて驚異の68奪三振。県NO・1左腕の実力を見せつけ、昨夏決勝で敗れた悪夢を払拭(ふっしょく)した。

 「マ・ツ・イ!!」「マ・ツ・イ!!」。相手スタンドからも惜しみなく注がれる拍手と松井コールに、ヘトヘトの体が力を帯びた。力ない足取りでマウンドに戻った7回。松井はこの日初めて打者3人で切った。「うれしかった。あの大歓声で、試合を楽しめました」。9回最後もカーブで三振。3人締めとすると、人さし指を高々とつきあげ、勝者の栄光に酔いしれた。

 実は6回裏の打席で、右足甲に死球を受けていた。それも前日167球、通算671球を投げた、満身創痍(そうい)の体に。両肩を抱えられてベンチに引き揚げ、氷で冷却。以降は振り抜きの反動でよろめきながら投げた。どこにそんな力があったのか。「一番キツかった。気力だけでした」という8回にも140キロ超えをマークし、4回以外毎回の15奪三振。「打たせるよりリスクが少ないので」と、通算46回1/3で68個もの三振を積み上げた。

 縦スライダーとカーブが伝家の宝刀だ。中1の時、元巨人投手コーチの小谷正勝氏(67)に指導を受けた。大きく曲がるカーブは当時から定評があり、青葉緑東リトルシニア・中丸敬治監督が「プロスカウトが、高校生を含めても関東NO・1と言っていた」と証言するほど。中3時には、同じ横浜スタジアムで全国制覇を成し遂げた。

 しかし翌年、ハマスタは悪夢の地に変わる。1年生ながら決勝の先発を任された昨夏、走者をためて4回KO。横浜に延長10回サヨナラ負けを喫した。肩のスタミナをつけるべく、週3日は試合を想定した200球投球を導入した。1回20球、イニング間の休憩を挟み10セット。球速も1年で10キロアップした。「今年は完投で勝てた。充実感があります」。俳優森山未来似のスマイルをさく裂させた。

 190チームが集う激戦区を制した、期待の2年生左腕。「ここだけ目指してやってきた。ベストピッチなら全国でも通用すると思います」。甲子園開幕まであと10日。万全のコンディションで立つ聖地のマウンドに、新たなヒーロー誕生の予感だ。【鎌田良美】

 ◆松井裕樹(まつい・ゆうき)1995年(平7)10月30日生まれ。横浜市出身。小学2年で野球を始め、3年生から投手に。横浜の青葉緑東リトルシニアに所属して中学3年では全日本選手権で優勝した。中学の先輩がいたことで桐光学園に進んだ。昨年の横浜との決勝戦も先発した。目標とする投手は杉内(巨人)。家族は両親と弟。174センチ、74キロ。左投げ左打ち。

 ◆桐光学園

 1978年(昭53)に創立の私立校。野球部も同時に創部し、部員数は65人。全校生徒1740人(女子565人)。甲子園は春1度。夏は4度目。主なOBはロッテ山室公志郎、元サッカー日本代表の横浜中村俊輔。所在地は神奈川県川崎市麻生区栗木3丁目12番1号。伊奈博校長。◆Vへの足跡◆

 

 

 2回戦4-0厚木北3回戦12-1横須賀大津4回戦6-4相洋5回戦7-2百合丘準々決勝4-3横浜準決勝5-3平塚学園決勝11-4桐蔭学園