<高校野球静岡大会:常葉学園菊川9-1静岡>◇25日◇決勝

 常葉学園菊川が静岡を下し、県では戦後初の4季連続甲子園出場を決めた。夏の連覇は68、69年の静岡商以来、39年ぶり。1回裏、1番酒井嵩裕遊撃手(3年)が初球を三塁打し流れをつかむと、4安打で3点を先制。2回に酒井、2番伊藤慎悟中堅手(3年)の2者連続本塁打で3点を追加し、突き放した。監督交代など騒動の影響を結束力で乗り越えた。試合後、グラウンドで組み合わせ抽選が行われた。初戦は大会7日目(8月8日)の2回戦で、相手は福知山成美(京都)に決まった。

 いきなりの長打で、流れを一気に常葉学園菊川に引き込んだ。1回裏、先頭の酒井が初球の高め117キロのスライダーをたたく。「無心でした。打つことしか考えてなかった」。打球がダイビングした右翼手の先を抜けた。三塁打。2番伊藤は2球目を中前適時打し、わずか3球で先制した。さらに2本の適時打で2点を追加した。

 2回にはパワーで突き放した。無死一塁、酒井が変化球を左翼へ弾丸ライナーの2ラン本塁打。「甘く入ってきた。調子は悪かったけど(調子は)関係ないという気持ちだった」。4回戦後に熱中症で点滴を3本打ったと思えぬ回復ぶり。続く伊藤は、変化球をバックスクリーンまで運んだ。「自分も狙っていきました」。2者連続本塁打で相手エースをKOした。6-0。序盤で勝敗は決した。

 どん底の状態から頂点に上り詰めた。連覇を狙ったセンバツでは3回戦敗退。「体が動かなかった」と重圧に苦しんだ。さらに春季県大会。昨秋コールド勝ちした常葉学園橘に8回コールド負け。5月には週刊誌のセクハラ(性的嫌がらせ)報道で森下知幸前監督(47)が謹慎した。2年前の夏に1回戦負けだったチームを就任8カ月でセンバツ優勝に導いた指揮官を失い、チームには重い空気ばかりが漂った。

 酒井が振り返る。「あんな負け方をしたのは初めて。どうしたらいいのか分からなかった」。ともに2年から主軸を務める前田隆一主将、町田友潤二塁手(ともに3年)らと話し合った。「打てなくてもチームを引っ張ろう。元気を出そう」。姉3人がいる末っ子の酒井は、小さいころから無口の照れ屋だった。常に寡黙にプレーしてきたが、あえて練習から大声を出すスタイルに取り組んだ。町田も、自認していた「プレーで引っ張るタイプ」を捨てた。控えめだった選手が監督をしのぐほどのリーダーシップを発揮しだすと、チームに勢いと結束が生まれた。ナインは帽子のつばなど身につけるものに「絆(きずな)」と書き込んだ。

 大会では全員が「とにかく楽しもう」と常に笑顔でプレーした。佐野心監督(41)は「部員から甲子園のコの字も出なかった。高校球児にあるまじき事かも」と、選手の結束力に目を細めた。佐野監督の前に森下前監督を「エア胴上げ」した常葉菊川ナイン。戦国静岡と呼ばれる県で39年ぶりの連覇を果たし、甲子園に乗り込む。【斎藤直樹】