<高校野球愛知大会>◇21日◇3回戦
昨夏の王者・中京大中京が甲子園連覇へ向けて好発進した。名古屋市工との初戦に臨み、6-0と完勝した。今夏限りでの勇退が決まっている大藤敏行監督(48)に、お世話になったナインがまずは1勝をプレゼントした。
整列に向かうナインを優しいまなざしで見つめた。試合は横手投げの軟投派にてこずり、打線がつながりだしたのは中盤に入ってから。エンジンのかかりは遅れたが、終わってみれば9安打6得点。最後はエース森本が3者連続三振と横綱相撲で夏1勝目を挙げた。「夏の初戦はこんなもの。これで地に足がつくんじゃないかな」。昨夏、名門を43年ぶり全国制覇に導いた大藤監督は笑顔だった。
6月17日。マネジャーを含む、3年生25人がグラウンド横の室内練習場に集められた。「この夏で辞めることになった。最後でお前らで良かったって言えるようにしような」。目に涙を浮かべて話す監督を見つめ、ナインのほとんどが泣いた。「本当は隠したかったんだけどね。みんなには意識させたくなかったから」。ナインに、黙っていることはできなかった。
伝統の儀式がある。夏の初戦の前日に監督が、ナインに歌を披露する。20日、グラウンドに選手を集めた大藤監督はアカペラで歌い出した。ゆずの『栄光の架け橋』だった。プロも注目する強肩捕手、磯村嘉孝主将(3年)は「“栄光への架け橋へ”っていうところを“栄光への甲子園へ”って歌ってもらった。グッときました」と声を詰まらせた。
「子どもたちにはそんな風に考えないようにしてほしい。変にそんな意識をもってほしくないから」。監督がそうは言っても、選手たちの思いは1つだ。「できるだけ長く一緒に野球がしたい」。磯村主将は力強く話した。いくつもの時を越えて…「大藤中京」のラストサマーは、まだ始まったばかりだ。【桝井聡】