10年から19年までの10年ひと区切り(ディケイド)をテーマに阪神を分析し“猛虎の風説”について考える企画「この10年、阪神やっぱりこうやった!?」。今回は「阪神はFA戦略がヘタ?」です。ドラフトや助っ人獲得以上に戦力を左右するフリーエージェント、阪神のこの10年を振り返ると…。

阪神のFAで目立つのがオリックスとの関係だ。FA制度が導入された93年オフに移籍してきたのが石嶺和彦だった。翌94年オフには山沖之彦が加入。さらに99年には「星の王子さま」として知られた星野伸之が加入している。すべてオリックスからの移籍だった。

実力がありながら人気面では大きな差があった阪急=オリックスの選手間に「いつかは阪神で…」という意識があったという話も聞いたことがある。若い人にすれば“昭和の香り”のするエピソードだろう。

残念ながら、その3人が古巣で残したような結果は出せなかったため、阪神は「FA補強がうまくない」というイメージが生まれたのかもしれない。

そんなイメージを覆したのが金本知憲だった。02年オフに当時の星野仙一監督からのラブコールに応える形で広島から移籍。一気にチームの中心選手となり、03年、阪神の18年ぶりリーグ優勝に貢献したのは記憶に新しい。

阪神にとっては同じセ・リーグから初のFA獲得ということも影響したかもしれない。07年オフには金本を慕う新井貴浩も同じく広島から移籍。優勝には結びつかなかったが、その後、広島に戻り、古巣の3連覇に貢献するという異例の展開となった。

「オリックス→阪神」という傾向は近年、再び高まっている。この10年(ディケイド)で見ると12年に日高剛、16年に糸井嘉男、さらに18年オフに西勇輝とオリックスからの移籍が目立っている。

阪神は過去に12人のFA選手を獲得しているがその半数の6人がオリックスからの移籍。本拠地が近く、住居などの生活環境を変える必要がないのも大きな要素だろう。

この10年で見ると糸井も頑張っているが素晴らしかったのは昨季、移籍1年目の西勇輝だ。イニング数でキャリアハイを記録。引退を決めたメッセンジャーに代わり、投手陣の柱となった。

成功の理由について西に聞くと「トシ(年齢)じゃないですか。以前は30代半ばで移籍することも多かったし」と答えた。事実、FA権の取得年限については段階的に短くなっている。90年11月生まれの西は阪神1年目が28歳で迎えたシーズンとなった。この年齢で移籍となれば阪神に限らず、移籍先で活躍できる可能性は高くなる。

そんな西の成功例を見ても、阪神のFA戦略は経験を積んだ上で慎重になり、うまくなってきていると言えるかもしれない。【編集委員・高原寿夫】