甲子園をアーチで沸かせた男が、プロでも特大アーチでデビューした。阪神ドラフト2位井上広大外野手(18=履正社)が15日、社会人・四国銀行との練習試合(安芸)で代打から出場し、初打席の初球で初本塁打を放った。2打席目は中前適時打で2打数2安打3打点。右足首捻挫の影響で出遅れたが、楽しみな長距離砲がベールを脱ぎ始めた。

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拍手で迎えられた井上が、一振りで安芸市営球場の虎党1600人を熱狂させた。4回1死二塁。DH伊藤隼の代打で登場。相手左腕の初球、甘く入った直球を逃さず捉え豪快に左翼ネットまで運び去った。

大歓声の中、ダイヤモンドを1周。「中村三塁コーチから『やっちまったな』と言われて」。満面の笑みでホームインし、ベンチでナインとハイタッチした。「正直、緊張していた。打席に入る前に小幡さんから、どんな球が来ても1回フルスイングしたら緊張は解けると言われたので」。最初の一振りで推定120メートルの特大アーチを描いた。

この日は途中出場が決まっていた。3回から登板していた相手左腕を見て「どういう動きをしたら自分がどう動くのか。素振りするときもタイミングを合わせていた」としっかり準備した上での一撃だった。

2軍キャンプ第3クールの13日からバットの材質を、これまでのメープルからバーチへと替えた。硬いメープルと軟らかいホワイトアッシュの中間で「飛距離の伸び方がいい」と好感触だった。履正社の松平一彦部長(42)から、木製バットにはいろんな材質があることを教えてもらい、2学年先輩のロッテ安田モデルのバットを注文するときにメープル以外も頼んでいた。

6回1死一、二塁での第2打席はパワー系右腕の外角低めスライダーを中前へはじき返す適時打。「中堅を意識してスイングした。踏み込めた。バットのヘッドもしっかり立っていた」。広島鈴木誠、巨人岡本、11日に急死した野村克也氏と、参考にしてきた好打者と同じように2打席とも、バットをこねずにヘッドを立てて球を捉えた。

ファンから「ナイスホームラン」「感動した」と声援を受け「うれしかった。たった1本だけど、本塁打が積み重なっていけば、ファンのみなさんが自分にもっとほれ込んでくれると思う」。高校通算49本塁打のスラッガーは、プロでもホームラン打者として道を切り開く。そう決心させるアーチとなった。【石橋隆雄】

▽阪神北川2軍打撃コーチ(井上の打撃に)「普通にすごい。並のルーキーではない。正直、まだ穴は多いがパワー、スイング力のすごさはある。結果として打てている。1年間かけて日高(打撃兼分析担当コーチ)と一緒に、彼のいいものを出してあげたい」

▽阪神和田テクニカルアドバイザー(井上が別メニュー時の練習相手を務める)「練習では状態は良くなかった。試合になると変われるのはすごい。懐が深く、バットが広角に出せる。(活躍にも)1つもホッとはしていない。始まったばかり。北川コーチ、日高コーチらがしっかりやっている成果。ルーキーたちが頑張って(チームに)いい刺激になる」

▽四国銀行・平山史崇投手(24=松山大、井上に1発を浴び)「スライド気味に中から内へ直球が甘く入った。高卒ですが思い切って振れている。オーラがあるし、もう1度対戦したくなる打者」

○…井上はホームランボールに興味はなかった。球場のアルバイトスタッフが取って手元へ持ってきたが、サインを書いてプレゼント。「玄関に飾っておきますと言われましたよ」と笑った。1軍の公式戦での本塁打など大事なボールはこれから増やしていく。そんな決意が感じられる「サービス」だった。

◆井上のここまで 19年11月に履正社からの下校中に右足首を捻挫した。1月の新人合同自主トレも別メニュー調整が続いたが、終盤はロングティーで柵越えを連発していた。高知・安芸での2軍キャンプも別メニューでスタートし、8日から本隊に合流。初の屋外フリー打撃では37スイングで4発を放った。11日のチーム初実戦には間に合わなかったが、2戦目でデビューした。

◆黙とう 阪神は、2軍キャンプ地の高知・安芸での四国銀行との練習試合前に11日に死去した野村克也元監督の冥福を祈り、コーチや選手たちが黙とうした。

▽阪神平田2軍監督(井上の2ランに)「もう驚いたね。一発で仕留められる。(打球の)角度といい、大したもの」

◆井上広大(いのうえ・こうた)2001年(平13)8月12日生まれ、大阪府出身。履正社では1年夏からベンチ入りし2年秋から4番。昨夏の甲子園で同校を初の優勝に導いた。星稜(石川)との決勝ではヤクルト・ドラフト1位奥川から3ラン。高校通算49本塁打。昨秋ドラフト2位で指名され阪神入団。187センチ、97キロ。右投げ右打ち。