首都圏各地の小、中学野球もコロナ禍により自粛していた活動を再開した。多くの大会が中止となったが、東京・足立区少年野球連盟(足少連)は5日、2020年度最初の公式戦となる東京都秋季学童軟式野球大会足立区予選会を開幕した。

1回戦の梅田ヤングスターズ-二丁目キングス戦が行われた竹ノ塚第5グラウンドでは、会場設営から「ソーシャルディスタンス」が気遣われた。学童(小学生)野球中心の同グラウンドのベンチは据え付けの長いすが2つほどの規模だが、この日はその2倍以上の広さとなる白線が外野方向に引かれた。ベンチ内の「密」を避けるためで、選手の移動用のバッグも近くに保管できるようにした。応援の保護者は、ベンチ裏ではなく外野後方のネット越しでの観戦を願われた。

手の消毒後、グラウンド入り。先攻後攻を決める主将同士のじゃんけんは、握手せず2メートル離れて行われた。試合前のあいさつは、両ベンチから一、三塁線まで進み整列して行われた。まるで、オールスターゲームのセレモニーのような形で、慣れない選手たちも背筋が伸びた。

本塁後方に立った球審が「このような形でしか試合ができませんが…おたがいに礼!」と開始を宣言した。両チームとも最後に試合を行ったのは2月末。安倍晋三首相が春休みが終わるまで休校要請した3月2日から、足立区はグラウンドの貸し出しを中止し、足少連は各チームに活動自粛を要請した。その後発令された緊急事態宣言が解除となった6月も足少連は万全を期して試合を禁じた。両チームにとって、4カ月ぶりの試合が公式戦となる気の毒な状況だった。それでも、試合ができる喜びが上回るように、選手はグラウンドに飛び出した。

足少連独自の「感性防止対策ガイドライン」に沿って、試合は進められた。監督、コーチ、保護者はマスク着用だが、プレーする選手は外した。梅田ヤングスターズは控え選手もマスクを外した。熱中症予防の配慮で、これもガイドラインに明記されている。「ベンチ内での大きな声での会話、声援などは極力控えること」とあるため、学童野球ならではの応援歌は歌えない。監督からいつもより大きな音で拍手するよう指示がでていた。

得点した選手がベンチに帰ってきた。ハイタッチは禁止なので「エアハイタッチ」で祝福した。プロ野球の無観客試合でも目にした光景なので、スムーズに無邪気な笑顔があふれた。ピンチのチームの監督がマウンドに向かう。集まった際には、距離をとりグラブで口元を覆い会話するよう明記されている。声を大きくすると、相手ベンチにも聞こえるだけに、作戦上の指示は伝えにくい。

ガイドラインにはないが、ベンチからグラウンドへの大声での指示は、指導者1人だけに限定された。これは意外に目立つので、叱責(しっせき)する声は上げにくいかもしれない。逆にグラウンド上の選手の声だしは自由なので、選手同士が、確認や励まし合う声が以前より飛び交っていたような気がした。のびのびと選手に任せろということかもしれない。

試合が終わり、再び距離を開けてのあいさつ。密にならないよう、両チームが時間差でグラウンドから出た。グラウンド整備する大人は、手袋着用でトンボを使った。

足少連の担当者は「ようやく試合ができるようになりました」と表情を引き締めた。プロや高校と比べ、小、中学校の少年野球は施設が整った球場やグラウンドは使っていない。ガイドラインに記載されていないことも、臨機応変に対応していくという。河川敷のグラウンドが多い足立区は昨年10月の台風被害以来、少年野球の活動制限が相次いだ。もうこれ以上、子どもたちに我慢させたくない。少年野球再開の一戦にはそんな願いがこめられた。【取材=久我悟、浦部歩、飯嶋聡美】