【シアトル(米ワシントン州)10日(日本時間11日)=四竃衛】結果以上の、感動があった。シアトル・マリナーズのイチロー外野手(27)が、初出場のオールスター戦で初安打を放った。初回の第1打席、前マ軍の「背番号51」ランディ・ジョンソン(37=ダイヤモンドバックス)から一塁線を襲うイチローらしい内野安打。直後に二盗も決めた。3打数1安打で5回終了後に交代したが「こういう素晴らしい環境を与えてくれたことに感謝したい」と感激を口にした。試合は、同僚の佐々木がセーブを挙げア・リーグが4―1で快勝。MVPには先制アーチを放ったカル・リプケン(40=オリオールズ)が選ばれた。

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背番号「51」のユニホーム全体を、経験したことのない高揚感が包んだ。地元で迎えた、イチローの球宴初打席。マウンド上には、球界最長身(2メートル7センチ)で、現役最高左腕のランディ・ジョンソンがそびえ立っていた。いつものように、バットを回し、構えをとった。だが、イチローの胸は、例えようのないほどの喜びに満たされていた。

2球目。150キロの内角直球を一塁線へ運んだ。一塁ヘルトンが横っ跳びに好捕したため、最後はベースカバーに入ったジョンソンとの「足比べ」。イチローならではの内野安打が、球宴初安打となった。直後には二盗に成功。だが、イチローにとって、結果はあくまでも二の次だった。

★イチロー 興奮していたと感じましたが、地に足が着いてないというほどではなかったですし、周りも見えてました。ただ、安打を打てたということより、ジョンソンはボクの前にマリナーズで51番をつけていた選手だし、素晴らしい選手。そのあとボクが51をつけているわけで、それがこちらで頑張れる要因のひとつなんです。この番号を汚しちゃいけないと思ってきたし、その選手とオールスターで対戦できたことは本当にうれしいです。

ジョンソンと対決した1打席だけではない。2時間48分の試合、いや試合前の練習を含めた「球宴」すべてが至福の空間だった。6回に入る直前には、三塁コーチスボックス付近でのリプケンとグウィンの偉業をたたえるセレモニーへベンチを飛び出した。「そういうのがあるのを知らなくて、出遅れちゃいけないと思ってグラウンドへ走っていきました」。全選手が2人を囲んだが、イチローが陣取ったのは2人のすぐ後ろだった。

3歳で父宣之さんからグラブを買ってもらって以来、常により高いレベルの野球を目指してきた。小、中、高と野球に明け暮れ、プロ入り後も究極の選手像を追い求めて技術と体力を磨いてきた。その最終到達地が米国だった。マイナーを含めると世界29カ国から選手が集まっている米国球界。その頂点といえるメジャーの球宴にファン投票トップで名前を連ねた。世界で最も野球のうまい選手が集結する祭典に、先頭打者として打席に入った事実がイチローの胸を熱くした。

★イチロー 今まで球宴は、テレビで見たことがあっても肌で感じることはできなかった。それを自分の体で感じることができたのがうれしい。大リーグの歴史に残る選手と同じラインアップに名前を並べ、一緒のグラウンドに立てたことがすごくうれしいんです。

冷静なトーンながら、何度も「うれしい」というシンプルな言葉が口をついた。「名誉」「誇り」という言葉では言い尽くせない。前日の会見で「皆さんよりボク自身が楽しみたい」と話した通り、夢舞台を存分に楽しんだ。

そんなイチローを、ファンは総立ちで出迎え、だれもが「最高の1番打者」として認めた。一時代を築いた名選手が去り、ニューヒーローが迎えられた日でもあった。「素晴らしい環境を与えてくれたことに感謝したい。何年かあとにすごく大きいものとして残るものだと思います」。球宴直前まで首位打者争いを演じ、安打、盗塁数でトップを走ってきた。だが公式戦とは、ひと味もふた味も違う充実感。日本が生んだ天才アスリートが、またひとつ大きな財産を手に入れた。

◇ジョンソン、快足に脱帽

ランディ・ジョンソン投手(37=ダイヤモンドバックス)が貫録の2回3奪三振で2年連続先発の大役を果たした。先発予定だった同僚シリングが肩の張りで登板回避。バレンタイン監督が前日に代替先発を示唆していたこともあり「ベンチに来てすぐに分かったよ」と準備はできていた様子。唯一の走者となる内野安打を許したイチローについては「投球後に体が三塁方向に流れたら、彼はもう3歩も走っていた。あっという間にベースに達していた」とそのスピードに脱帽。一方で「もう1度対戦したい」と熱望した。

☆イチロー一問一答☆

――球宴初出場の感想は

イチロー 僕にとっては未知の世界だった。それを肌で感じることができてうれしかったです。

――リプケンが本塁打を打った

イチロー 本塁打を打つこともそうですし、最後の大舞台でやってしまうところはすごい。

――いつもの右翼ではなく、中堅を守った

イチロー ここ何年もやってなかったのでボールが飛んでこなくてホッとしてます。レギュラーシーズンなら、もう少し練習しなきゃいけませんね。

――5回終了時にはリプケン、グウィンの引退セレモニーもあった

イチロー そういうのがあるのを知らなくて、出遅れちゃいけないと思ってグラウンドに走っていきました。一緒にグラウンドにいられるという、そういうことの大きさを思ってました。

――第1打席で対戦のランディ・ジョンソンについては

イチロー まず、サインボールをありがとう、と言いたいですね(笑い)。(インターリーグで対戦の可能性もあるが)できればやりたくない相手ですね。