真夏の甲子園が、逆転に次ぐ逆転の大熱戦に沸きに沸いた。準々決勝の第1試合は、中京商(愛知)以来73年ぶりの夏3連覇を狙う駒大苫小牧(南北海道)が、東洋大姫路(兵庫)を0-4から逆転、5-4で準決勝に進出。大会新の1試合7発の空中戦となった第2試合、智弁和歌山-帝京(東東京)は、9回の攻防で死闘が演じられた。4-8の9回表に帝京が大量8点を奪って逆転。その裏、智弁和歌山も驚異の粘りで5点を奪い逆転サヨナラ勝ちした。球史に残る激戦を制した両校は大会14日目(19日)の準決勝で激突する。

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半ば、ぼうぜんの表情だった。勝利の瞬間、前日に春夏甲子園で、現役監督最高の通算50勝を達成したばかりの名将、智弁和歌山・高嶋仁監督(60)がつぶやく。「何か、すごい試合をやってしまった」。両校合わせて29安打25点。1試合でチーム5本塁打、両チーム計7本塁打の大会新記録となった打撃戦は、最後で大きく揺れ動いた。

8回裏終了時点で8-4と智弁和歌山リード。三塁側の帝京アルプス席では帰り支度を始める人もいた。だが、波乱のドラマは9回の攻防に潜んでいた。

【9回表・帝京】4点差を追う9回2死。一、二塁ながら絶体絶命の状況から、帝京が怒とうの6連打で一挙8得点。5連打目となる杉谷拳士(1年)の逆転左前2点適時打で9-8。さらにこの回、代打で登場し2度目の打席となった沼田隼(3年)のダメ押し3ランで突き放した。「あれで試合が決まったと思った」と沼田は確信した。

だが、ドラマは終わらない。一転、4点を追う立場に変わった智弁和歌山はあきらめない。帝京が、3番手登板のエース大田阿斗里(2年)に代打・沼田を送ったため、経験ある投手がいなくなった。9回裏に登板した3人は全員がこの夏初の公式戦マウンド。試合巧者の智弁和歌山は、そのスキを見逃さない。

【9回裏・智弁和歌山】2四球で無死一、二塁。4番橋本良平(3年)が左中間への3ランを放ち1点差。息もつかせぬ展開に、場内は1球ごとに歓声と悲鳴が交錯した。さらに連続四死球で1死一、二塁から、代打・青石裕斗(3年)の中前適時打で同点。なおも満塁で、古宮克人(3年)がサヨナラの押し出し四球を選び激戦は終わった。

壮絶なドラマに、球場内は拍手が鳴りやまない。甲子園通算51勝となった高嶋監督と、同40勝の帝京・前田三夫監督(57)。百戦錬磨の両監督が見せた土壇場でも動じない采配も、球史に残る一戦を演出した。

高嶋監督は最後まで動かないスタイルを貫いた。1点を追う9回裏無死一、二塁。バントもあり得る場面だったが、当たっている馬場一平(3年)を強攻させた。結果は左飛。エンドランや盗塁で揺さぶることもなかった。続く代打・青石にも「自分のバッティングをしろ」と送り出した。同点適時打。最後まで選手の力を信じた。「8点取られてあきらめていました。『勝ちたかったらランナーためろ』と言ったが、まさか現実になるとは。選手たちの『負けない』という気持ちが勝たせたのでしょう」と感無量の表情だ。

前田監督は最初から動いた。先発に、今大会初登板の1年生・高島祥平を起用する奇策に出たが、結果は2回途中で3失点。「継投で後半勝負と思っていた。チームを引き締める狙いもあった」。9回裏はかく乱作戦に出た。1点差に迫られた無死一塁から、杉谷をワンポイントで投入。初球、死球で出塁を許すと、すぐ岡野裕也(3年)をマウンドへ。何とか相手打線を断ち切ろう、ともがいた。前田監督は「あと1人投手がいれば。でも結果論ですし仕方ない。内容は勝っていたけど、詰めが甘かった。高島さんの優勝を狙ったチームと互角に戦って悔いはないです。私も高嶋さんを追いかけます」とサバサバと答えた。高嶋監督は「こんな勝ち方は初めて」と繰り返した。例年以上に熱い甲子園は残り5試合。ただならぬクライマックスの予感が漂う。【鳥谷越直子】