ワールドカップ優勝を掲げた日本代表。ある記事によれば選手から「ベスト8ではなく優勝を目指しませんか?」という話が出たという。元Jリーガーの僕が細かいことを言える立場にはないが、挑戦を繰り返して批判と共にその掲げた目標を達成してきた立場で言わせてもらうと、その選手の姿勢は素晴らしいの一言に尽きる。

ワールドカップ優勝は高く、厳しい目標だ。「今の日本代表の実力はグループリーグ突破が限界」。でも、それはベスト8という目標がそうさせていた可能性があると僕は思っている。

そもそも達成できる目標は目標ではない。ということは、選手も含め協会関係者全員がベスト8は厳しいよな、でもここを目指したいよね、という感覚だったに違いない。それはグループリーグ突破という結果で止まっても仕方ないということと同義語である。

今回、選手が掲げた「ワールドカップ優勝」。無謀で可能性は極めて低いが、希望と無限の可能性を示す大きな価値観を植え付けたと思っている。そしてこれの何が素晴らしいかというと、選手自身がその当事者になったということ。もうひとつは、これから全ての試合を「ワールドカップ優勝」という視点で見られること。もっと言えば、そのワンプレー、ワンプレーはワールドカップ優勝につながるのかどうか、そう捉えることができる。

その上で、前回のペルー戦を見ると、僕は疑問が残る。手放しで喜べる結果ではないと思う。人気を取りにいきたい代表関係者の思惑はわからないでもないが、90年代のやり方で同じようなブームを起こそうと思っても意味がない。サッカー日本代表をブームにしてもまた同じことが起きるだけ。本質を捉えて、この大きな挑戦を本気で後押ししなければいけない。

そのためには、どれだけ多くの人を巻き込めるか。国民の半分がワールドカップ優勝を当事者国として意識できるかどうかにかかってくる。ブラジルやドイツ、スペインやオランダ、アルゼンチンのサッカーファンや関係者はどのような感覚を持ち、どんな取り組みをしているのだろうか。

もちろん僕には全てがわかっているわけではないが、ポルトガル語が話せることでブラジル人の友人はたくさんいる。そんな彼らの日常にはサッカーがある。そして日常にはその地域のクラブがあり、毎日その話で持ちきりだ。

今のJリーグはどうだろうか。もちろん、局所的な人気はあるのは事実だが、それがワールドカップ優勝へとつながるものになっているだろうか。大事なのは人を巻き込む力。代表選手がワールドカップ優勝を口にしたんだ。Jリーガーも同様にその思いを持たなければいけない。ワールドカップ優勝を前提に日々のトレーニングを行い、自分が代表に呼ばれた時にはその意識でプレーしたり、振る舞うべきなんだ。

しかし、代表に呼ばれてからその意識を持つようでは遅い。僕はJリーガーを目指している時からJリーガーとしてのプロ意識を持ち、人生の全てをかけていた。だからこそ、多くの人を巻き込むことができ、それがブームではなく今でも続いていることに意味があると思っている。

もちろん、全国民が知るほどの巻き込みにはなっていないが、少なくともサッカー界という自分が目指した業界の人間の多くはその存在を知ってくれている。 挑戦者にとって大事なのは表明して行動すること。心では思ってました、では誰も動かないし巻き込めない。人生全てをかけて挑む姿勢こそ、人の心を動かし、行動に変える。

ペルー戦、とても強い日本代表を見ることができたが、ワールドカップ優勝国という想定の比較で考えると足りないことだらけだろう。その中でも遠藤航選手のプレーには人を動かす力があった。勝っている中、自陣ペナルティーエリア内でヘディングを競り、そのクリアボールに自ら反応してシュートブロックまでいったシーンは本気で目指してる場を想像させてくれた。

そんな中、気になったのは解説陣。ただ褒めるだけでワールドカップ優勝という前提を全く持っていない。やはりワールドカップ優勝というとてつもなく大きな目標を達成するためには選手とスタッフだけではなく、そこに近い経験もある人たちがその気になって本気でやるべきだ。

相変わらずテレビへの忖度(そんたく)なのか、自己保身なのか、的を射ないコメントは聞いていてむずかゆくなる。解説者は元日本代表ではあるがワールドカップ優勝経験者ではない。もちろんそんな人は日本人では存在しない。だからこそ勉強が必要だと思う。

ワールドカップ優勝経験者への取材や実際にヨーロッパへ行き、その地域やトップクラブを取材する。自分が経験できないなら、少しでもそれに近い存在になろうとする努力が必要だと思う。

どうでもいいくらいの余談だが、僕がABEMAから那須川天心選手のラストマッチの大会での解説に呼ばれた時はめちゃめちゃ取材しまくった。もちろん自費で。ワールドカップ優勝は日本国民が全員当事者になるべきこと。とはいえいきなりは難しいので、まずはサッカーに携わる人たちが本気になってワールドカップ優勝の当事者意識を持つことが何より大切だと思っている。

僕の周りの仲間たちは、僕の試合が決まると、一緒に減量するメンバーがいる。だから僕は自分の最大限以上の力を発揮できるんだ。


◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳で地元クラブとプロ契約を結んだが開幕直前のけがもあり、帰国。03年に引退するも17年夏に39歳で再びプロ入りを志し、18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年にJ3YS横浜に移籍。同年開幕戦の鳥取戦に41歳1カ月9日で途中出場し、ジーコの持つJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を更新。20年限りで現役を引退し、格闘家転向を表明。22年2月16日にRISEでプロデビュー。プロ通算2勝1分け1敗。175センチ

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「元年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

元年俸120円Jリーガーで、格闘家の安彦考真
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