国境、性別の差を超えて世界中にファンを持つWWEの“女帝”アスカ(ASUKA=38)の歩みをたどる連載「アスカの歩む道~“女子プロレス”を超えて~」。最終回は、アスカの目から見た日本とWWEのプロレスの違い、今後の展望を聞く。

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男女両方の試合を含むWWEの大会でメインを任されるアスカは、もはや「女子プロレス」というジャンルの中に生きていない。アスカは「『女子プロレス』と聞くと、ちょっともやっとします。私の中には、その言葉自体がないですね」と話す。

WWEのスーパースターとして活躍するアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved
WWEのスーパースターとして活躍するアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved

アスカのWWEでの成功は、同団体で「女子革命」が進んだ時期と重なる。かつて、WWEには「ディーバ」と呼ばれる存在がいた。男子選手を指す「スーパースター」とは違い、「ディーバ」は選手に加え、マネジャー、タレントら登場する女性すべてを指す言葉。セクシーな要素、添え物的な意味合いが強かった。だが、WWEは男女差別への意識が高まる現代社会を鑑みて、15年から女子部門の強化を開始。アスカはその中心を担う選手として、熱烈なラブコールを受けて入団した。

「私が入った時(2015年秋)は、もう『ディーバ』の言葉がなくて、女性選手も『スーパースター』の呼び名となっていました。これから女子部門を強めていく、そのために私が呼ばれたんです。これが私の使命なんや、と思いましたね。WWEに来たばかりの時、NXTの大会で私が何回かメインを務めました。その時は、スタッフの方々に『女子がメインなんてほんまにすごい!』『メインおめでとう!』みたいに言われていました。そのぐらい、WWEでは女子選手がメインに出ることは珍しかったんです。でも、今はPPVやテレビ放送のメインを任されたりするのがすっかり普通になりましたね。WWE内の男女の差を埋め始めた最初のきっかけの1人が私じゃないのかな」。

世界最大の団体WWEで男女差が薄れていく中で、日本プロレス界のメジャー3団体といわれる新日本、全日本、ノアはいずれもほぼ男性の試合のみで構成される。日本では多くの女子プロレス団体が存在することもあり、「女子プロレス」は一ジャンルとして確立されている。また、女子プロレスは現在主に男性ファンに支えられている。日本でも活動していたアスカはその違いをどう感じているのか。

「(日本の状況)まぁ、独特やなぁと思いますよね。自分が日本にいた頃、見に来てくれる女性の方が少なかっただけに、ファンになってくれるのはものすごいうれしかったですね。当時、私は普段は男性のプロレスを見ているファンを増やそうと意識していました。女子プロレスの世界は、小さい村のような雰囲気。そこの中で勝負するだけでなく、男子のプロレスを見ている人にファンになってもらおうと考えていました。彼らが喜ぶような選手にならないと、世界に通用するレベルにたどりつかないと思っていました」。

WWEに入ってからも、さらに日本との差を痛感した。WWEでは個性が何よりも重要視されるという。

WWEのスーパースターとして活躍するアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved
WWEのスーパースターとして活躍するアスカ(C)2020 WWE,Inc.All Rights Reserved

「特に日本では、運動神経のいい選手が評価される傾向があるように感じますが、WWEで認められるためのポイントはそこではないんです。こんなことできます、あんなことできます、だけではアメリカ、というか世界のファンはそうですか、という感じ。ファッションだったり、個性が強いことが大事。もちろんレスリングの技術は必要なんですけど、ファンを引きつける雰囲気や人間性が重要になってきますね。WWEには、レスリングの技術があり、動けるのに、全然人気がない方もほんとにたくさんいます。日本はキャリアがある人ほど偉いという面がありますが、ここでは人気がある人が1番なんです」

これから日本、そして世界のプロレスはどう変化していくのか。その中で女子選手の立ち位置はどうなっていくのか。アスカは「WWEが女子をメインで扱い始めたので、世界のプロレスも徐々にそうなっていくと思います」と希望を込めて、予想した。

多忙ゆえ、日本の女子プロレスラーの試合は「あまり見られていません…」と正直に明かす。ただ、「ツイッターでよく目を引かれるのですが、明るくて、楽しそう」とセンダイガールズプロレスリングの岩田美香と橋本千紘を気になる選手として挙げた。やはり、アスカ自身も発信力を感じる人に引かれるようだ。

ここ数年、日本の女子選手が海外団体の興行に出るケースが多くなってきた。アスカはそんな後輩たちの背中をぐっと押す。「海外へ進出するチャンスがある選手は、どんどんした方がいいと思います。実際に海外を本拠地にしてみないと、この感覚は分からないと思うんですけど、世界をつかむ、というのは楽しいです」。

男女、言葉、肌、文化の違い。あらゆる壁を取っ払って輝くアスカの言葉は、力強く響く。【高場泉穂】