15歳で入門して12年。高安はいかにして、大関にたどり着いたのか。連載「誕生 新大関高安」と題して、素顔などを紹介する。

 05年1月、中学3年の冬休みだった。高安は父栄二さんに連れられて当時の鳴戸部屋を訪れた。「相撲は絶対嫌だ」と拒むも「見るだけだ」と説得された。そこで先代師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)と出会う。「完全に捕まりました」。それは心も、体もだった。

 連絡なしに訪れた時間は昼間。ゴミ1つない清潔さが目に留まった。自宅に行くと、いきなり特上ずしが用意されてびっくりした。外出中だった先代は戻ってくるや「脱いでみなさい」。2度目のびっくり。パンツ一丁になり、体中をくまなく触られた。「いい体だ。筋肉がゴムのように伸びる。手足も大きい」。手のサイズは先代よりも大きく「立派な関取になれる」。そして「稀勢の里は両親にマンションを贈った」と聞かされ、さらにびっくり。「もう入ると決めました」。力士高安の誕生だった。

 1年目は兄弟子との人間関係に悩み、何度も脱走した。だが、相撲を嫌いになったことも、ウソをついたこともない。それは先代も感じてくれた。「私生活も相撲も何も分からない。先代が白と言えば何でも白。素直に聞いていた。よく『素直なやつが出世する』と言われていました」。若の里や稀勢の里らと違い、怒られたことがない。部屋に呼ばれ「高安、これ食え」とアイスをもらったことも。先代色に育てられた。

 新十両昇進時に、先代は「三役以上を狙える」と言ってくれた。「そうならなきゃいけないと、ずっと頭の中にあった。やっと1つ、恩返しができました」。天国の先代に感謝した。【今村健人】