大相撲名古屋場所(7月9日初日、ドルフィンズアリーナ)で、豊昇龍(24=立浪)、大栄翔(29=追手風)、若元春(29=荒汐)の3関脇が大関とりに挑む。3人同時に昇進となれば史上初の快挙になる。日刊スポーツでは「歴代大関が語る昇進場所」と題して、大関経験者の親方に、昇進に必要な「心・技・体」を聞いた。第10回は元栃ノ心のレバニ・ゴルガゼさん(35)。

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大関昇進前の3場所合計で37勝という、文句なしの成績で大関に駆け上がっていったのが、ジョージア出身の“怪力”元栃ノ心のレバニ・ゴルガゼさんだ。昇進前3場所37勝は、年6場所制が定着した58年以降では、豊山、北天佑の2人の元大関と、元横綱の3代目若乃花と並ぶ最多。得意の右四つから左上手を引けば、誰にも止められないパワーと勢いがあった。

2場所前が平幕とはいえ14勝して優勝、直前場所は関脇で10勝していた。2場所で24勝。3場所33勝の昇進目安には9勝で届くところ、優勝次点の13勝を挙げた。初日から12連勝し、優勝争いの単独先頭を走っていた。だが13日目に平幕正代に負け、14日目は1敗で並んだ横綱鶴竜との直接対決に敗れて連敗。そのまま鶴竜に優勝をさらわれた。ただ、3場所のうち2度も千秋楽まで優勝争いに絡んで実力を示した。余裕の昇進に映るが内心は違った。

元栃ノ心 大関とりの場所は、やっぱり緊張した。考えないようにしても、どうしても意識しちゃう。最初が大事。2勝、3勝としてくると乗ってくる。何から何まで自分との闘いだから自分に勝たないとダメ。だから「心技体」で一番必要なのは「心」だと思う。しこ名に「心」が入っているのもあるし(笑い)。

大関とりとしては初めて訪れたチャンスをものにしたが、新入幕から所要60場所での昇進は、2代目増位山と並び、史上最も遅かった。08年夏場所で新入幕、10年名古屋場所で新三役の小結に昇進。だがケガで4場所連続休場し、西幕下55枚目まで番付を落とした。ただ、そこから幕下と十両を、ともに2場所連続で優勝。4場所連続各段優勝を飾って幕内に戻ってきた。

その後は幕内から陥落することなく大関に昇進したが、在位は7場所にとどまった。しかも途中、1度は関脇に陥落。途中で陥落した休場明けの19年春場所、7勝7敗で迎えた、9勝5敗の関脇貴景勝との千秋楽は、前代未聞の“大関入れ替え戦”。勝った方が次の場所で大関という緊迫の一番で敗れたが、関脇の翌場所で10勝して返り咲いた。

元栃ノ心 大関に上がるのも大変だったけど、上がってからの方が大変だったね。ケガが多かったから。次で大関とりの3人とも本当に強い。ただ、昇進して終わりじゃないからね。

結果的に大関昇進前3場所が、最盛期ともいえる状態だったゴルガゼさん。大関の座を守るにも、さらに横綱に昇進するにも、それまで以上の努力の必要性を訴えていた。【高田文太】

◆栃ノ心剛史(とちのしん・つよし)本名レバニ・ゴルガゼ。1987年10月13日、ジョージア・ムツケタ出身。元欧州ジュニア王者の柔道やサンボを経験し春日野部屋入門。06年春場所初土俵。08年初場所新十両。同年夏場所新入幕。13年名古屋場所で右膝に大けがを負い、幕下まで転落したが18年初場所で初の幕内優勝。同年夏場所後に大関昇進。今年夏場所6日目の取組前に引退。今後は相撲協会を離れ、貿易関係の仕事を行う。優勝1回。三賞は殊勲賞2回、敢闘賞6回、技能賞3回。金星2個。

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