大相撲名古屋場所(7月9日初日、ドルフィンズアリーナ)で、豊昇龍(24=立浪)、大栄翔(29=追手風)、若元春(29=荒汐)の3関脇が大関とりに挑む。3人同時に昇進となれば史上初の快挙になる。日刊スポーツでは「歴代大関が語る昇進場所」と題して、大関経験者の親方に、昇進に必要な「心・技・体」を聞いた。最終回は元武双山の藤島親方(51)。

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初土俵から当時最速の8場所目で新三役、しかも関脇の座に就きながら、そこから大関昇進に6年も要した。大関とりの難しさ-。それを身をもって知るのが元武双山の藤島親方だ。新関脇だった94年春場所は、スピード出世に、まだ大銀杏(おおいちょう)も結えていなかった。それが大関昇進を果たした00年春場所後の時点では、関脇を20場所、小結を11場所も経験。脂の乗りきった28歳で、満を持して昇進した。

藤島親方 何度かそういう(大関とりの)場所はあったけど、今思うと最初のころは「今回ダメでも、また来るだろう」という甘い気持ちがあった。でも何度か上がれず「力があれば上がっていく」と思うようになり、一段と稽古するようになった。そうしていくうちに気持ちも強くなった。

2場所前が小結で10勝、直前場所が関脇で13勝を挙げて初優勝していた。大関とりの00年春場所は初日から4連勝。初日は前頭琴龍を押し出した。豪快に土俵下まで吹き飛ばす快勝だった。すると3日目にアマチュア時代からのライバル、対戦成績がほぼ互角の小結土佐ノ海に完勝。勢いに乗って、4日目は横綱曙を破った。12勝3敗の優勝次点という好成績を収め、場所後に同じ武蔵川部屋の横綱武蔵丸、大関出島とともに看板力士に名を連ねた。

藤島親方 序盤戦、特に初日が大事。終盤の横綱、大関戦の方が、向かっていけるので気は楽。初日はどんな力士でも硬くなる。大関昇進が懸かっていれば特に。しかも番付が下の相手なので、取りこぼせない思いも強くなる。そこを乗り越えられるか。だから「心技体」では「心」が大事。

大関とりの3日目、土佐ノ海戦はプロでは初の巻き落としが「自然と出た」というほど、体の動きはよかった。4日目は229キロの曙を、放り投げるように突き落とした。曙も「すっげえよ」と、完敗と成長を認めていた。初優勝した際も勝てず、9連敗中の難敵からの3年ぶり白星だった。大関とりの場所は予想外の技や力が出ることを体験。全ては精神面の充実に起因していると知っている。

大関とりの3関脇は、幕内後半戦の審判長も務める土俵下でずっと見てきた。

藤島親方 三役で2場所連続、10番勝ってきた。十分、力はあるということ。先に霧島が大関に昇進し、当然、3人には刺激になったはず。今場所が楽しみ。

現役時代の武蔵川部屋のライバルといえば「若貴」の両横綱らがいた二子山部屋。当時のような切磋琢磨(せっさたくま)と土俵の盛り上がりを期待していた。【高田文太】(終わり)

◆藤島武人(ふじしま・たけひと)本名・尾曽武人。1972年(昭47)2月14日、水戸市生まれ。水戸農高3年時の89年に高校横綱。アマ横綱となった専大3年時に中退し、武蔵川部屋入門。93年初場所、幕下60枚目格付け出しで初土俵。デビュー14連勝、2場所連続幕下優勝で、新十両に昇進した同年夏場所で本名から「武双山」に改名。十両も2場所で通過し、同年秋場所新入幕。00年初場所で初優勝し、同年春場所後に大関昇進。04年九州場所4日目に引退。優勝1回。殊勲賞5回、敢闘賞4回、技能賞4回。金星2個。

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