宝塚歌劇月組公演でミュージカル「エリザベート」が東京宝塚劇場で上演されている。宝塚では96年に初演され、雪組のトップスターコンビだった一路真輝と花總まりが主演した。初演を見ているが、当時はミュージカルと言えば、ブロードウェーやロンドン発のものばかりで、オーストリアの首都ウィーン生まれのミュージカルには「どうなんだろう」と疑問符付きで見た記憶がある。しかし、その心配は杞憂だった。黄泉の帝王トートと美貌のオーストリア皇后エリザベートの物語に、「愛と死の輪舞」など珠玉の数々のナンバーに魅せられた。

宝塚ではその後、96年星組の麻路さき、白城あやか、98年宙組の姿月あさと、花總まり、02年花組の春野寿美礼、大鳥れい、05年月組の彩輝直、瀬奈じゅん、07年雪組の水夏希、白羽ゆり、09年月組の瀬奈じゅん、凪七瑠海、14年花組の明日海りお、蘭乃はな、16年宙組の朝夏まなと、実咲凛音、今回の珠城りょう、愛希れいかと、10回も上演され、観客動員は240万人を超えている。「ベルサイユのばら」「風と共に去りぬ」に続く看板演目になっている。

00年には帝劇でエリザベートに一路真輝、トートに山口祐一郎と内野聖陽のダブルキャストで上演され、今や東宝ミュージカルにあって「レ・ミゼラブル」「ミス・サイゴン」と並ぶ人気演目になった。それをきっかけに、「エリザベート」の脚本・作詞ミヒャエル・クンツェ、作曲シルヴェスター・リーヴァイのコンビによる「モーツァルト!」「レベッカ」、日本初演で、帝劇で再演中の「マリー・アントワネット」と、ウィーン・ミュージカルという新しい潮流が根付いている。

しかし、ウィーン・ミュージカルの原点となった「エリザベート」は、ミュージカルの本場とも言えるブロードウェーやロンドンで上演されたことがない。その理由には諸説あるが、ロンドンは王室に否定的な内容のため、英国王室に忖度(そんたく)しているという見方がある。また、ブロードウェーはユダヤ人が多く関わり、大きな力を持っていることもあって、ホロコーストを行ったナチスドイツに協力したオーストリア生まれで、しかもドイツ語で初演された作品を忌避しているではと言われている。

理由はどうあれ、ブロードウェーやロンドンでは上演されない作品を、東京では何年かおきごとに見ることができるし、今月は「エリザベート」「マリー・アントワネット」の2作品が上演されている。そのほか、フレンチ・ミュージカル、韓国ミュージカルも東京でよく上演される。そして、黒沢明監督の名作映画をミュージカル化した「生きる」が現在、上演されている。日本発ミュージカルが世界に進出できるのか。その可能性はあると思う。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)