愛犬の死を受け入れられない少女サヤカ(新津ちせ)と、息子を亡くしたフセ老人(笈田ヨシ)との交流を描いた。伊集院静氏の小説を映画化した。犬と少女と老人、ほのぼのした物語かと思ったが、2人の苦しみをシリアスに切なく描き、見る人に死生観を問いかけるような作品だった。

とはいえ、悲しい物語ではない。2人の友情はとても真摯(しんし)で温かい。かなり年齢差のある2人が対等に、相手の気持ちをおもんぱかって寄り添う姿が美しかった。賢くてかわいい犬のルーもずっと見ていたいくらいだ。

せりふの1つ1つも聞き逃せない。日常の中にまぎれている言葉が、シンプルだがどれも大切なことを言っている。サヤカが犬を飼いたいと両親を説得する一連の場面、サヤカとフセ老人が海に遊びに行く場面、フセ老人の営む喫茶店での2人の会話…。「ずっと、そばにいます」「よろしくお願いします」。書くと何でもない言葉だが、考えて考えて絞り出される言葉が胸に迫った。

撮影前、実際に新津とルーが一緒に暮らして準備したそう。四季を通じてのシーンも含め、丁寧に撮られたことがよく分かる。

【小林千穂】 (このコラムの更新は毎週日曜日です)