だれでも発信できるネット空間では根拠が乏しくても、人々の関心や注目を集めやすい情報のほうが価値があるという「アテンション・エコノミー」という経済モデルが大手を振っている。いまやネットの騒動(炎上)がリアルな活動にも影響を及ぼす時代。火消ししようと、焦れば焦るほど、どんどん燃えさかる。

作家浅倉秋成氏の同名小説を、阿部寛主演で映画化。大手住宅メーカーの部長を務める山縣泰介は、ある日「女子大生殺害犯」として名指しされ、ネットで炎上していることを知る。アカウントを作った覚えはなく、「俺ではない」と無実を訴えるも、X(旧ツイッター)は何者かが泰介に巧妙に成りすまし、犯行を自慢。会社も家族も信じてくれず、決死の逃亡劇が始まる。

警察やネット民だけではなく、「犯人狩り」に乗り出すユーチューバーたちにも追い詰められ、次第に疲弊していく阿部の演技に心を揺さぶられた。芦田愛菜の場面に応じた表情の変化もいい。藤原大祐、長尾謙杜、夏川結衣ら実力派キャストが作品の強度を上げている。「明日はわが身」。戦慄(せんりつ)を覚える“炎上サスペンス”だ。【松浦隆司】

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