芸能の世界でよく聞く「内弟子制度」のことです。再来年の5月1日に予定されている改元の後、平成の次の年号でも、果たして歌謡界に残っているのでしょうか。

 演歌歌手の走裕介(44)は、09年に歌手デビューするまで、今年2月に亡くなった作曲家船村徹氏(享年84)のもとで、10年間もの長きにわたって、内弟子生活を送っていました。

 内弟子とは、師匠と同居をして、寝食をともにする弟子のこと。家の「内側」にいるから「内」弟子なんですね。走の新人時代の主な仕事は、師匠らが出かけている間の留守番です。3年も続いたそうです。「石の上にも三年」ということわざがありますが、留守番で3年とは…。

 留守番と並んで大切な仕事が、食事の準備です。料理の味付けの感性は歌にも必要だとか、船村氏の前で行うダイニングパフォーマンスは「場慣れ」の養成だとか…。

 師匠の信頼を得てくると、今度は付き人や運転手になれます。仕事先に一緒に行くので、対人関係の人付き合いや礼儀作法を学ぶことができるといいます。ライブ会場に行けば、多くの歌手の曲をナマで聞く貴重な経験ができます。武道で言うところの「見取り稽古」です。

 しかし、発声法など、直接的な歌唱指導はありません。歌の「修業」というよりは、人の道の「修行」です。「すぐに身につくものは、すぐに役立たなくなる」という言葉もありますが、さすがに10年は長い。

 山本譲二、小金沢昇司らが北島三郎の付き人をやっていたことは有名ですし、坂本冬美も師匠の作曲家猪俣公章氏の付き人として車の運転などをしていました。これは主に昭和の時代のことです。

 「平成」の次の元号になるのは約1年半後。「内弟子」という言葉が、歌謡界で死語になっているような予感がします。