ピーターこと池畑慎之介(67)が1年3カ月の休養を経て、4月に芸能活動を再開した。69年に映画「薔薇の葬列」で衝撃的なデビューを飾って51年。歌手、役者として枠にはまらない活動を続けて半世紀がたった。ジャンルにとらわれず「ピーター・イズ・ピーター」と言い切る、その思いを聞いてみた。

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平成の終わり、2019年の正月から芸能活動を休止した。「デビューの前、16歳の時から他人の決めたスケジュールに従って生きてきた。50年たって、自分で何かを決めたいという欲望が出てきた」と振り返る。

19年1、2、3月は大好きなハワイですごした。「友達もいるし、便りがないのは無事の証し。インスタグラムもアップしてたしね。ゴルフと食事の写真ばっかりだったんだけど(笑い)。それから日本に帰ってきて、キャンピングカーで桜前線を2週間ばかり追って、韓国に3日間ご飯を食べに行きました」と振り返る。

19年5月1日、令和最初の日は芳村真理(85)森山良子(72)小川知子(71)萬田久子(62)ともに、小さなイタリアンレストランを貸し切って“女子会”を開いた。「『令女の会』ってね。楽しくて話が尽きなかった。みんな元気で、今も頑張ってるから」。

5月半ばからパリに飛び、ヨーロッパを回ってニューヨーク。最後にハワイに1カ月滞在して帰国した。「最後はゴルフ場であばらを打って、3本きれいに折れていた(笑い)。だいたいキッチン付きの所を借りて、市場に行って料理も作る。自分が住んでみたいと思うところに行くのが好き」。

たっぷり充電して、思い残すことはない。「いえいえ、まだまだ行ってみたいところがたくさんある。スウェーデン、ノルウェー、南イタリア。次は電車のフリーパスを買って、ヨーロッパの気に入った街に降り立つ旅をしたい。本当はバックパッカーとか、レンタカーで1人旅をしたいけど、危険だからね」。

死ぬまでにやりたいことをノートに書き込んでいる。「小さい頃から思っていたことを、実現できたら消していく。でも、またやりたいことが増えていく。過去を振り返らずに、前を向いていける」と言う。

コロナ禍でライブ、芝居ができないのがつらいという。「お客さんが目の前にいる方が好き。足を運んでくれて、対価を払ってくれる。それが芸能の原点だと思う。10代の頃からシャンソンを歌っているけど、この年になって初めて実年齢で歌える。年老いた女が若い子に恋こがれる思いをね。元々、越路吹雪さんの大ファンでしたから」。

69年に映画「薔薇の葬列」のゲイボーイ役でデビュー。直後に「夜と朝のあいだに」で歌手デビュー。少女のようなルックスに低音の歌声でレコード大賞最優秀新人賞を受賞した。「女の子みたいな顔で歌い出したらすごい低音。テレビが壊れたって思われました(笑い)。本当は高い声に憧れていたんだけどね」。

役者にして歌手。「歌手とか役者とか、縦割りはいらない。エンターテインメントは何だっていいんですよ。テレビでも、お笑いでも、日本舞踊だって、モダンバレエをやってもいい。自分は人前で何かをやるパフォーマーでありたい」と言う。

メークをして女性を演じ、歌い、踊る。そしてTBS「下町ロケット」では切れ者の弁護士を演じた。「よく女装とか言われたけど、私はそうは思っていない。ピーターであるためのメーク。『ピーター・イズ・ピーター』。オネエブームとか言われるけど、なんで一緒くたにするのかな。1億人いたら1億人の個性がないとおかしい。男とか女とか言う前に、芸事を見てほしいですね」と言う。

父親は98年に亡くなった上方舞吉村流の4世家元で人間国宝の吉村雄輝(享年74)。3歳で初舞台を踏み、後継者として期待された。「舞の家元としては天才だった。私に後を継がせたがったけど、反発しました。亡くなる10年くらい前から、認めてくれるようになった。私が役者として新派に出たり、黒沢映画に出て自分の世界を作ったから」と振り返る。

67歳、まだまだやりたいことがある。「高いところが好きで、空を飛びたいと思っている。パラグライダーやスカイダイビングにも挑戦してみたい。そのためにも、肉体を鍛えて、仕事を頑張る。『横のシワをどんどん増やして、縦ジワをなくしましょう』を合言葉にして、楽しくやっていきたいですね」。

50年たっても、時代の最先端を進んでいる。

◆池畑慎之介(いけはた・しんのすけ)1952年(昭27)8月8日、大阪生まれ。父は上方舞吉村流の4世家元で人間国宝の吉村雄輝。69年映画「薔薇の葬列」で主演デビュー。同年シングル「夜と朝のあいだに」で歌手デビュー。同年日本レコード大賞最優秀新人賞、ゴールデン・アロー賞新人賞。85年映画「乱」。01年NHK大河「北条時宗」。03年舞台「越路吹雪物語」。15、18年TBS「下町ロケット」。167センチ。血液型A。