東日本大震災発生から10年。被災地の取材を続けてきたNHK仙台放送局が、報道では伝え切れていない現地の声をドラマにした。

宮城県石巻市と女川町を舞台にした、宮城発地域ドラマ「ペペロンチーノ」が、6日午後10時半からNHK BSプレミアムとBS4Kで放送される。同県南三陸町を中心に被災地を取材し、報道を続けてきた、制作統括の青木一徳プロデューサーに制作の意義、ドラマに込めた思いを聞いた。1回目は、ドラマに落とし込んだ、震災報道で伝えきれなかったこと。

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タイトルの「ペペロンチーノ」とは、にんにくとたかのつめをオリーブオイルで炒め、ゆでたパスタとあえる一番簡単で、かつ難しいパスタだ。シェフの小野寺潔は、東日本大震災で発生した津波で自身のレストランを流され、自暴自棄になり、アルコールに依存してしまう。医師の佐々木春文をはじめ幾人もの人々と出会う中で、徐々に料理を作る意欲を取り戻し、妻の灯里とともに牡鹿半島の海の見える場所に新しいレストランを再建する物語だ。

神奈川県出身の青木プロデューサー(以下、青木P)は、09年から13年まで仙台放送局に赴任。11年の東日本大震災発生の際は、2日後に津波で甚大な被害を受けた南三陸町に入り、継続して取材。その後も東北各地の被災地を取材。東京に戻った後、自ら希望して再び仙台放送局に戻り、被災地の取材を続けている。

東京時代は音楽番組の制作が中心で、07年~16年まで総合で放送された「MUSIC JAPAN(MJ)」の、ステージを進行する舞台監督などをしていた。演出の丸山拓也ディレクターも「NHKスペシャル」などドキュメンタリー畑出身。現場を仕切る助監督はドラマのプロを呼んだが、制作した主要メンバーは、ドラマを専門に制作してきた立場ではない。そうしたメンバーが、東日本大震災をテーマにドラマを制作したのには理由がある。

青木P 地元局であり、被災地をずっと取材してきました。表に出てくる報道は、前に向かって進んでいる方だったり、ご家族を亡くして悲しみを抱えているという方が取り上げられがちですが、ニュース、報道、ドキュメンタリーでは届きづらい声や実感を、ドラマという形だったら届けられるんじゃないか? というところから、2年以上前に企画が立ち上がった。

ドラマでは、潔が震災発生から10年目となる21年3月11日にレストランに友人たちを招いて、うたげを開くシーンが描かれる。潔は10年前の今日、どこで何をしていたか思いだし、語ろうと友人に呼びかけるが、聞きたくないと拒否する人がいる。乾杯の際に「ここにいる俺たちも頑張った。(中略)今日は亡くなった人たちへの献杯じゃない。俺たちに乾杯しよう」と呼び掛けても、献杯にこだわる人もいる。発生から10年…被災地、被災した人、それぞれに違った思いを抱える、被災地の現実が描かれているのが印象的だ。

青木P ずっと現地で人の声を聞いてきた中で、時間がたてばたつほど、それぞれの感情、置かれている状況が、本当にさまざまで、どんどん複雑になっています。そこは意識して盛り込みたかった。いわゆるドラマというより、ちゃんとリアリティーのあるものを届けたかった。

2回目は、地方発ドラマのレベルを超えた、豪華なキャスティングが実現できた裏にあった、被災地への思いを青木Pが語る。【村上幸将】