東日本大震災発生から10年。被災地の取材を続けてきたNHK仙台放送局が、報道では伝え切れていない現地の声をドラマにした。宮城県石巻市と女川町を舞台にした、宮城発地域ドラマ「ペペロンチーノ」が、今日6日午後10時半からNHK BSプレミアムとBS4Kで放送される。南三陸町を中心に被災地を取材し、報道を続けてきた、制作統括の青木一徳プロデューサーに制作の意義、ドラマに込めた思いを聞いた。2回目は、地方発ドラマのレベルを超えた豪華なキャスティングが実現できた裏にあった、被災地への思い。

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脚本を担当した脚本家の一色伸幸氏は、ドラマの舞台となった女川町に、震災発生当時から継続して足を運んでいる。同じく脚本を担当し、13年3月に総合で放送された「特集ドラマ ラジオ」では、宮城県女川町で11年4月に開局した臨時災害放送局「女川さいがいFM」(現一般社団法人オナガワエフエム)で、実際にあった出来事を元に描いた物語が評価され、第68回文化庁芸術祭賞テレビ・ドラマ部門大賞を受賞した。

一色氏は家族の中に女川町出身者もおり、女川の人と触れ合っていく中で、表に出ない、いろいろな人の話や気持ちを聞き、それを脚本に織り込んだという。同氏は青木Pに「これは、ある種の童話。リアリティーはあるけれど、どこかにファンタジーなところもある」と語っており、見終わった後に、悲しみだけでなく温かい気持ちになれるのも、「ペペロンチーノ」の魅力だ。

主人公の小野寺潔を草なぎ剛、妻の灯里を吉田羊、潔の担当医・佐々木春文を国村隼と、地方局発のドラマでは考えられない豪華な俳優陣がそろった。オファーした際、俳優陣の多くが「震災以降、役者の自分が被災地のために何か出来たらいいな、と思いながら貢献できる機会がなく、やっと自分が被災地のために何か出来るんじゃないか」などと、口をそろえて快諾したという。中でも、潔の幼なじみの美容師・阿部より子を演じた矢田亜希子は、セリフの大部分が宮城の沿岸部の方言で難解なため、スタッフがセリフを減らすことも可能だと打診したが「私はちゃんとやり遂げたいから全部、方言でいいです」と断り、演じきった。また震災を機に福島県いわき市から東京に移った富田望生、ドラマの舞台・石巻市在住の齊藤夢愛や同市出身の蒼波純といった東北にゆかりの俳優に加え、一色氏の息子で俳優の洋平も出演している。

撮影は20年12月3日から21日まで、石巻市と女川町がある牡鹿半島や大崎市などで行われ、俳優陣は多忙なスケジュールを縫って東京と往復して撮影に臨んだ。首都圏1都3県に緊急事態宣言の再発出がささやかれていた時期で、青木Pは「コロナがあって、誰か感染者が出てしまったら作品が出来なくなってしまう。すごく、気を使った」と振り返った。クランクアップの際は、草なぎも吉田も話しているうちに涙したといい、同Pは「おふたりとも、思いを持って参加してくださった。ありがたいなと実感しました」と感謝した。

「ペペロンチーノ」初回放送翌日の7日に総合で放送される「NHKのど自慢」は、青木Pが震災取材を最も行った南三陸町総合体育館ベイサイドアリーナから生中継される。同Pは「震災当時、1番大きい避難所があり、遺体安置所も災害対策本部もあった。音楽畑出身の自分にとって『のど自慢』はレギュラーの仕事なので、発生から10年のこのタイミングで…何とも言えない」と感慨深げに語った。その上で「10年の節目という意識は全くなく、メディアとして違和感がありました。ただ『ペペロンチーノ』の物語の設定が10年後の3・11の上、この時期に関心が集まるので放送します。見てもらいたい」と力を込めた。【村上幸将】

※草なぎのなぎの字は弓ヘンに前の旧字体その下に刀