田中泯(76)が6日、都内で開催中の東京国際映画祭で行われた主演映画「名付けようのない踊り」(犬童一心監督、22年1月28日公開)ティーチイン舞台あいさつで「僕は踊りを踊っています。でも、私の踊りとして所有する気は全くない」と踊りに関する考え方を語った。一方で「ビデオテープが生まれた頃から結構、踊りを記録されてきているんですが1度として踊った感覚に戻った試しはない。踊った時に体に押し寄せたものは映像になると消えてしまいます。それを同じようにして流すことに、むしろ嫌悪さえ抱いていた。犬童さんは、目を引き寄せてくぎ付けになるような踊りを編集してくださった。僕が踊った時の踊りと、違うものになっている…ここが大事」と映画の素晴らしさを強調した。

「名付けようのない踊り」は、2005年(平17)の映画「メゾン・ド・ヒミコ」への出演オファーをきっかけに交流してきた犬童一心監督(61)が、17年8月から19年11月までポルトガル、フランス、東京、福島、広島、愛媛など3カ国、33カ所で田中が踊ってきた「場踊り」を撮影した。田中は「僕が感じた踊りは何月何日のどこと記録して、僕は大事にしまっている。この映画の踊りは僕が確かに踊っていますが、犬童さんによって踊りとして作り上げられたもの…これがうれしい。格好良いんです、僕にとって」と映画を絶賛。「踊りは再生する技術を音楽と比べて全く持たない。踊りを見た人の中で生まれ変わっているはず…それを犬童さんの映画作品として実現してくれた。これが一番、言いたいこと」と強調した。

犬童監督は「初めてお会いし『メゾン・ド・ヒミコ』に出ていただいて15年。山梨で畑があって、農家としか思えないところに、農家の人のように真っ黒に日焼けして現れたのが泯さん。『このシナリオは良いと思うけれど、演技は出来ない。その場に一生懸命いることが出来る…それはダンスでやってきたことだから。良いですか?』と言われた」と、田中との出会いを振り返った。その上で「その後、泯さんのダンスを見てきて…その言葉が残っていた。ポルトガルに誘われて、撮ってみようかなと思って行った。自分の疑問を、作品の中で試してみようと思った」と製作の経緯を語った。

田中は「映像のために踊るということをしたつもりはなくて。やっぱり、その場所で、その場所で踊っていた踊りは、やっぱり、その場所のためのもの。その場所でキャッチした踊りのつもりで踊っていた。それが最も大事な部分で、見てくださった犬童さんが再生してくださった」と犬童監督に感謝した。