民放テレビの番組視聴のポータルサイト「TVer」が、大きく変わりつつある。今年4月に民放キー局5系列のネットによる「リアルタイム配信」が出そろった。今まで「見逃し配信」を見るためのイメージが強かったTVerの役割も広がり、アプリは5000万ダウンロードを超えた。現在は「TVerでととのう」をテーマに、各局の「サウナ番組特集」を行っている。今年6月に就任したTVerの若生伸子社長(60)に「TVerのこれから」について聞いてみた。【小谷野俊哉】

テレビ番組の同時配信を見るために、局を選ぶよりTVerで番組を選ぶ流れがやって来た。現在はゴールデンタイムの全国放送が中心のリアルタイム配信。今後は24時間化への期待もかかる。

若生社長 リアルタイム配信についてはスマホやタブレット、パソコンで見ていただいている。24時間化については、まだ検討中。ユーザーにとって、何が一番必要か、どこまで時間帯を拡張すべきかというのが課題になります。

TVerが大きな役割を果たすのが、突発的に大きな事件や事故、災害が起きた時。

若生社長 大きなことが起きた時に、まずTVerで確認しようというプラットフォームを目指したい。今年7月8日には安倍晋三元首相の銃撃事件がありました。午前11時半ぐらいに事件が起きて、そのあと午後0時半ぐらいから、TVerで各局の報道特番をリアルタイム配信したんです。リアルタイムのレギュラーの時間帯ではありませんでしたが、各局と連携を取りながら対応をさせていただきました。今後もユーザーにとって必要な情報をお届けできる体制作り含めてしっかりやっていきたいと思います。

ドラマの見逃し配信でユーザーを増やしたTVerだが、今ではドラマをリアルタイム配信で“同時視聴”するのも人気だ。

若生社長 地上波や録画で、ご覧になる方もいるでしょう。ご自身の視聴環境に合わせて、好きな時に、好きなデバイスでということで。ドラマ好きな女性がTVerで見逃し、あるいはリアルタイムで見ていただくことはあると思うんです。そして、普段はドラマとかテレビのコンテンツをご覧にならない若い方もいる。1人暮らしでテレビを持っていない方とかが、TVerを通してテレビのコンテンツに触れる。それでドラマを見るユーザーが増えるのはうれしいですね。

今年7月にTVerアプリのダウンロード数は5000万ダウンロードを突破した。

若生社長 リアルタイム配信やスポーツのライブ配信が始まったことで、今年6月にはTVerを訪れるティーン層の数が前年同月比で171%という数字を記録しました。4月からはローカル番組含めて1週間で500番組くらいを配信しています。その効果で、今まであまりテレビを見てこなかったっていう若い方が増えたようです。

テレビ各局にはフジテレビオンデマンドなど、独自の配信サービスがある。NHKも配信のNHKプラスをやっている。

若生社長 TVerを通じて、各局の配信サービスの集客にもつながっていくということだと思っています。NHKさんは、民放との2元体制で支えてきました。今後は配信を、どう協調しながら、やっていくかだと思うんです。実際、NHKさんから、TVerにコンテンツを提供していただいたりしているんですよ。今後、放送と配信というものを、どう捉えて国民のためにやっていくかを切磋琢磨(せっさたくま)していきます。

1953年(昭28)にNHKと日本テレビが放送を始めて70年。メディアの王者として君臨してきたテレビの立ち位置が変わりつつある。YouTube、Netflixなどネットを通じてまた、スマホ、タブレットなどで、いつでも好きな時に好きな場所で動画を見られる。短時間のショートコンテンツを好む人も出てきた。

若生社長 テレビ番組の1時間とか2時間というサイズは、我慢できないと、倍速で見たりする人も出てきました。ドラマの視聴の仕方は、倍速で結果が知りたいとか、好きな人の登場するシーンを何回も見たいという人もいます。あと、家のテレビでドラマを見ながら、同じドラマを同時に見ている友達とSNSで感想を言い合う。ちょっとコミュニティー的な感覚を持ったりとかもあります。

テレビの視聴の仕方が、多様化している。TVerもそれに対応していく。TVerのリモコンボタンの付いたテレビも発売されて、徐々に視聴環境は整いつつある。

若生社長 TVerでも、見逃しで見ていただいている固定層がいらっしゃるんですよね。その一方で、ドラマが放送中にSNSで話題になって、面白そうだっていうので若い人が急にTVerでリアルタイムで見だすことがあるんです。だからドラマの後半だけ、リアルタイムのティーンの数字がグッと上がってくるみたいなことがある。いろいろな視聴環境がある中で、地上波とTVerがうまく補完してやっていくことなんだと思います。

フジテレビ時代は営業のエースとして活躍。18年には女性として初の執行役員になった。今度はTVer、民放、そしてテレビ界全体の新時代を作っていく。

◆若生伸子(わこう・のぶこ)1987年(昭62)に上智大大学院を卒業、フジテレビに入社して秘書室に配属される。編成局第3制作部、ローカル営業部長等を経て、18年執行役員広報局長兼企業広報室長。22年4月TVerに出向。同年6月代表取締役社長就任。

■“TVerでととのう”サウナ番組特集

TVerでは、16日から来月17日まで“TVerでととのう”をテーマに「サウナ番組特集」を行っている。テレビ各局のサウナ関連番組を「エリア別」「ジャンル別」「初心者向けサウナ番組」「1日1問クイズキャンペーン」など特集。再生数、お気に入り数などを元に表彰する「TVerサウナアワード」を特集している。

若生社長は「TVerが何かをオリジナルで作っているわけではないんです。テレビ東京さんのドラマ『サ道』が漫画から作られて、サウナブームがムーブメントに。それでサウナ番組の特集を組みました。TVerの良さが生かせるって、こういうことだなと思って。各局のコンテンツ、ローカル局、BSの番組も含めて、埋没しちゃって見られる人が限られてるようなものも含めて紹介しています。また、ユーザーのコミュニティー化みたいなことも目指せる。ユーザーが楽しめる空間であるみたいなことが、これからのTVerのもう1つの課題だと思っています。ユーザーに愛されるプラットフォームになることが、今は一番大事だと思っています」と話している。

「サウナ特集」には「ポカリスエット イオンウォーター」がスポンサーに付いている。若生社長は「テーマ性を持った特集を企画した時に、応援したいというクライアントが出てくるというのはすごくいいですね。これからもいろいろなプランを実現していければ」と話している。