フランスで開催中のカンヌ映画祭で、最高賞パルムドールを争うコンペティション部門に出品された、役所広司(67)の主演映画「Perfect Days」(日本公開未定)の公式上映が25日(日本時間26日)行われた。

上映後、場内には「ブラボー!」の声とともに拍手が巻き起こった。その中、役所は今作を手がけ、1987年(昭62)「ベルリン・天使の詩」で監督賞を受賞した巨匠・ドイツのヴィム・ヴェンダース監督(77)と抱き合った。続けて共演のダンサーの田中泯(78)と歓喜の抱擁を繰り返した。スタンディングオベーションは、約10分も続いた。

役所は公式上映後、共演陣と取材に応じた。劇中では東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山を演じ「お客さんの、この映画を受け入れてくださる温かい拍手に、本当に感動致しました」と満面の笑みを浮かべた。熱いスタンディングオベーションを受けた気持ちについて聞かれると「皆さん、褒めるの上手ですよね。監督が言ってたんですけど『褒められても自分がうまいと思わないで、けなされても自分がダメだと思わないで、映画で語りなさい』と…。まさに、そうだなと」と、ヴェンダース監督からかけられた言葉を紹介。「でも、今日みたいな暖かい拍手を受けて、ああお客さんが喜んでくれてるんだ。良かったな。と単純に思いました」と喜んだ。

平山のもとに突然、訪れる、めいを演じた新人の中野有紗(16)は「見て下さっている方々の歓声だとか拍手を生で感じることが出来たので、私も本当に感動しました。泣いて下さっている方もいたので、そうい表情だったり、雰囲気を感じることが出来たのが素晴らしい経験だと思います」と語った。

平山と奇妙なつながりを持つホームレスを演じた、ダンサーの田中泯(78)は「まだ、クレジットが出ている時、お客さんがワーッと近づいてきて、ビックリしましたね。それが感想かな」と、観客の熱烈な反応に驚いた。その上で「外にいるみたいな話になっちゃうんだけど、素晴らしい作品に出られて本当に光栄でした…幸運と言うのかな? 今日、見ている最中…俺、これに出ているんだと、うれしくてしょうがない」と、公式上映を観賞中に出演できた事実と、その喜びをかみしめたと明かした。

柄本時生(33)が演じた、平山の同僚の清掃員の、ガールフレンドを演じた、ダンサーで表現者のアオイヤマダ(22)は「何か…こう、日本の細やかさ。銭湯の、おじさんのお尻に椅子がついちゃってポトンと落ちるクスクスって笑う細かい笑いとか、スナックのママの細かい手料理とか…1つ、1つは小さいんですけど。明るい温かいものにして、世界の皆さんに見ていただけるのはヴェンダースさんだからこそ、出来ることだと思いました」とヴェンダース監督をたたえた。さらに「役所さんの、芝居には収まらない表現力が相まって、日本の誇りというか良いところが全て集まったものだたなと、本当に感動しました」と、役所の演技も含め、日本の良さが映し出された映画であると強調した。

「Perfect Days」は、ヴェンダース監督が東京・渋谷を舞台に、役所を主演に撮影した最新作で自ら脚本も担当した。製作は、22年5月に東京で開かれた会見で発表された。ヴェンダース監督は、世界的に活躍する16人の建築家やクリエイターがそれぞれの個性を発揮して、区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修する、渋谷で20年から行われているプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に新作を製作。そのため、11年ぶりに来日し、シナリオハンティングなどを行った。

役所は取材の最後に、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督(59=メキシコ)が監督賞を受賞した「バベル」の出演者として参加した06年以来、17年ぶりとなった、同映画祭に参加した感慨を口にした。「17年ぶり…こんなに来るのは難しいものなんだと思った。日本映画が、もっと呼ばれるよう頑張ります」と誓った。

◆「Perfect Days」東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなく、常に新鮮で小さな喜びに満ちた、まるで風に揺れる木のような人生である。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読みふけるのが喜びで、いつも持ち歩く小さなフィルムのカメラで木々を撮る。平山は木が好きで、自分を重ねているのかもしれない。ある時、平山は思いがけない再会をし、それが彼の過去に少しずつ光を当てていく。平山が休日に訪れる居酒屋のママを歌手の石川さゆり(65)が演じる。石川が女優として映画に出演するのは、1979年(昭54)の映画「トラック野郎・故郷特急便」以来、44年ぶりとなる。ママの元夫を三浦友和(71)が、平山の妹を麻生祐未(59)が演じる。