仲代達矢(90)が、役者人生70年を超える中でわずかに3作目という舞台演出に挑んでいる。石川県七尾市・能登演劇堂で上演中の「等伯-反骨の画聖-」開幕を前に、都内の無名塾の稽古場で仲代を取材した。

初日まで約2週間という時期で、通し稽古を繰り返し、練り上げている最中だった。鋭い目でじっと役者たちの演技を見ているが、指示出しのためにストップをかけることはない。

仲代が「『俺がやったらこう演じるぞ』というのを押し付けず、それぞれの個性に応じてやっています。指導とするとか大げさなものではなく、困ったことがあったら相談してくれよという相談相手みたいなものです」と言うように、まずはそれぞれの演じ方でやってもらう、ということを大事にしているようだった。

相談相手、という言葉を聞いて、仲代にどんなことを相談するのだろうと思った。出演する俳優たちに聞いてみると「せりふを間違えたら、言い直した方がいいのか、そのまま次にいく方がいいのか。僕はそのまま次にいくんですが。『それでいいんだ』とおっしゃってくださいました」「緊張したらどうすればいいんですか、と聞きました」などと話してくれた。分かりやすい例を出してくれたのだろうが、とにかく、ささいなことでも聞けるんだなという印象を持った。

仲代がじっと見ている中での毎日の通し稽古に、赤羽が「お客さんの前に出た時の方が緊張しないと思います」と苦笑いして、仲代が「緊張させないようにやってるつもりなんですけどね」と応じたやりとりにも笑った。

仲代は「まるで新人。演出は素人ですから」と謙遜しつつ、演出のやり方は、妻宮崎恭子さんの影響が大きいとした。ともに無名塾を立ち上げた宮崎さんは女優であり、隆巴(りゅう・ともえ)のペンネームで、劇作家、演出家としても活躍した。仲代は「結局は役者を伸び伸びさせるということ。演出家、役者を導いていくということにかけては天才的でした。一番恩を受けているのは私です」と振り返った。

「影武者」「椿三十郎」などで黒沢明監督と、「切腹」「人間の條件」シリーズなどで小林正樹監督とともに仕事をしてきたことも影響しているようだ。仲代は「日本映画界を代表する監督たちにとても厳しく指導され、ぎゅうぎゅう言わされてきていますので、その反面教師なのかもしれませんね」と笑った。

いろいろと話を聞いて、役者人生3作目の演出作が楽しみになったのはもちろんのこと、仲代が役者としての意欲も見せたことも心に残った。「演出をしながら『ああ、こういうやり方もあるんだな』と思って見ています。役者としての仲代達矢を辞めたわけではないので、もう少しやりたいなという思いはあります」と、刺激を受けていることも語った。多くの人から学んだことを生かした上で、意欲と向上心はさらに高まっているようだった。【小林千穂】