さとうほなみ(34)が日本を代表する脚本家・荒井晴彦氏(76)の4年ぶり4作目の監督作「花腐し」で、作品の根幹を背負うと言っても過言ではない難役を、その人物として生ききる演技で圧倒的な存在感を放っている。今年は、4月期のフジテレビ系「あなたがしてくれなくても」と7月期の日本テレビ系「彼女たちの犯罪」と連続ドラマに相次いでレギュラー出演。「花腐し」の公開日の10日には都内で主演舞台「剥愛」も開幕と、ますます輝きを増す、さとうに迫った。【村上幸将】
「花腐し」は、無理心中を図った男女が海岸に並んで倒れている、2012年(平24)冬のシーンから始まる。その女性を演じたのが、さとうだ。「死んでしまう役はあるんですが、いきなり死んでいることはないです」と苦笑した。
物語は、さとう演じる桐岡祥子の実家を訪れたものの葬儀の参列を拒否された、綾野剛(41)演じるピンク映画監督の栩谷(くたに)修一を中心に展開する。祥子と心中した監督仲間の桑山篤(吉岡睦雄)の通夜に参列後、栩谷は家賃を滞納していたアパートの大家に依頼され、取り壊し予定の別のアパートに居座る、柄本佑(36)演じる伊関貴久に立ち退きを求めに行くが、勧められるまま酒を酌み交わす。
その中で、伊関が脚本家志望で00年に出会った俳優志望の女と、互いに初体験で男女の関係を持った思い出を語れば、栩谷も脇役で起用した俳優と06年に男女の関係になり、交際した当時を振り返る。スクリーンの中の2人は互いの女のことを知らずに語り続けるが、2人の回想シーンを見ている観客は2人が語る女が同一人物だと分かっている。そうした作品の構造を踏まえて、さとうは、祥子という役に、どうアプローチしたかを明かした。
「この作品の面白いところとして、まず2人の男性が自分の女性歴を話しているのが同じ人物(女性)だったというのを知るのが、観客しかいないということ。(お互いの女を)全く同じわけがないだろうと、しゃべっている2人の感じも面白い。祥子としては、見ている人にはバレているので(自分が演じている女を)誰だ? というふうにもしなくて良かったんです」
役作りで悩んだのが、伊関のセリフの「いい女だったんだよ、初めて付き合った女」の中にある「いい女」とは、どういう女か? ということだった。
「何年も前、別れた男性に、そう言われる女って、どんな女やねん? って最初の方、悩んだりしていたんですよ。伊関さんの心情は分からないんですけど、具体的な例を出して言っているわけではなくて、その時に2人でいた、思い出のようなものや感じたこと…楽しかった、うれしかった、おいしかったということが変換され、すごく良いふうに残っている。そう、自分の中で考えて、ふに落ちたんですよね」
祥子は20歳で伊関と初めて男女の関係を持ち、妊娠するも、俳優の夢を諦めたくないからと自ら堕胎を選択する。一方で、監督として憧れていた栩谷と同居していた32歳の時に妊娠3カ月が判明すると、仕事も来ず女優として頭打ちだった現状もあり、出産して家庭を持つことを栩谷に求めたが、拒否される。「流産した。昔、1度、堕胎したことがあるみたいで、それが原因じゃないかって、本人はノイローゼみたいになっていた」という栩谷のセリフも含め、役としての気持ちはもちろん、1人の女性としても思うところがあったという。
「女も男もしょせん、人なんだよな、と思うんだけど…でも、どうしても年齢を重ねることによって(女性には)ついて回るものってあると思うので。家族を作ることを拒んでも夢に向かっていって、それが逆転するみたいなところの気持ちの変化みたいなのって、女性の体の変化とともに、ついてくるものだから、それは目を背けられないものだなという気がしていて。だからこそ…祥子の道の歩み方は、すごく共感する女性も多いんじゃないかなって思いましたね。やっぱり、若い頃に家族を持つことは怖いことでもあるかも知れないし、幸せなことであるかも知れないし、祥子みたいに自分の夢の足かせになるんじゃないかという考え方もあるだろうし。そこからの変化は、すごく分かるところはありましたね」
84年「Wの悲劇」などで日本アカデミー賞優秀脚本賞を複数回、受賞した荒井監督に提案し脚本を変えた部分もあったという。「荒井さんの脚本を変えるなんて、そうそうできないことを…」と投げかけると「へへへっ。(なかなか)ないですよね。変えたというか…変わってますね」と笑いつつ、具体的に説明した。
「荒井監督は、私が意見を言っても取り入れてくださった。割と、脚本がググッと変わったところで言うと(祥子が)浮気したと思われる日に帰ってきた時、寝ている栩谷に謝るシーンがあって。隣に寝そべって栩谷が布団をかけてやる、みたいに最初はなっていたんですけど『やっぱり(祥子は)帰ってきて、まず行動的に服、脱ぐんじゃないですかね?』『泣くかな?』『布団、かぶるかな?』『Tシャツ、着るかな?』とか…変えたというか作っていった方が強いのかな」
荒井監督との向き合い方や「2人とも大尊敬」と評する綾野と柄本と真っ向から芝居でぶつかり合ったこと含め、度胸が据わっていたと言える現場でのあり方を支えていたのは、奥田瑛二(73)のひと言だった。
「一番、撮影が始まって、うおっと思ったのが、奥田瑛二さんから『この作品はお前にかかっている』って言われて。(撮影)初日かな。うわっ、と思いました。背中を押してもらった感じが、すごくありましたね。面と向かって言ってくれる人、いるんだなと思ったかな。ありがとうございます、って感じでしたね」
奥田との共演シーンは、奥田演じる著名な脚本家の沢井誠二が飲みの席で栩谷をこき下ろしたことに、祥子が激怒して飲みかけの酒を沢井の顔面にかけるというものだった。そのシーンの豪快さも際立っていた。
17年から女優として活動を初めて6年…自身のキャリアにとって、荒井監督の作品への出演を、どのような位置付けにあると考えているのだろうか?
「『花腐し』って、すごく内容的には重いんですけど、見た後に、ズンッと来ないというか。なぜだか分からないんですけど、キャラクターが、どこか、なぜか愛くるしいせいなのか、重かったで片付けられないような映画だなと思っていて。すごく出会えて良かったですし、すごく人にお勧めできる映画じゃないかなって。荒井監督と綾野さんと柄本さんという素晴らしいタッグに飛び込ませてもらったのも、すごく良い出会いだったなと思います」
Amazonプライムビデオで配信中のOriginal映画「次元大介」(橋本一監督)にも出演と、いまや話題作に欠かせない存在となった。「花腐し」で研さんを積んだ、さとうはさらに光り輝く。
◆さとうほなみ 1989年(平元)8月22日、東京都生まれ。4人組バンド「ゲスの極み乙女」のドラムほな・いこかとして活動し14年に「猟奇的なキスを私にして/アソビ」でメジャーデビュー。17年から俳優活動をスタートし、同年7月期のテレビ朝日系ドラマ「黒革の手帖」で連続ドラマデビュー。主な出演作は、22年の同系「六本木クラス」NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」Netflix「今際の国のアリスseason2」、映画「愛なのに」(城定秀夫監督)など。身長161センチ。
◆「花腐し」 荒井監督が作家・松浦寿輝氏の芥川賞受賞作を映画化。原作は、中年の地上げ屋がアパートに住み着く男と酒を酌み交わし人生を顧みる物語だが、77年の日活ロマンポルノ作品「新宿乱れ街 いくまで待って」で脚本家としてデビューし、歩んできた自身のキャリアを元に“ピンク映画へのレクイエム”という、原作にはないモチーフを脚本に落とし込んで大胆に意訳した。



