3月11日に、伝えたい。東日本大震災発生から今年で14年を迎える。

震災によって日常を脅かされた「被災馬」が、困難を乗り越え、今も各地で強くたくましく生きている。今回の「ケイバラプソディー」は、青森生まれで仙台在住経験のある桑原幹久記者がその現状を取り上げ、携わる人の思いに触れた。

雪が積もる放牧地を駆け回る、厩舎みちくさにけい養される馬たち(厩舎みちくさ提供)
雪が積もる放牧地を駆け回る、厩舎みちくさにけい養される馬たち(厩舎みちくさ提供)

「津波を経験した被災馬も、今は水を怖がることもなく、強く生きています。馬を通じて、何かを感じてもらえればと思います」。

広島出身の渡部南さんは、福島・南相馬市小高区で牧場「厩舎みちくさ」を経営する。以前は関東で乗馬インストラクターとして勤務。引退馬協会の被災馬支援で11年5月、同市を初めて訪れた。活動を重ねる中で、同市に魅力を感じ移住を決意。避難指示が解除された16年7月、以前は牛舎だった場所を改築し、開場した。

厩舎みちくさを経営する渡部南さん(厩舎みちくさ提供)
厩舎みちくさを経営する渡部南さん(厩舎みちくさ提供)

在厩馬の1頭「おにくん」は競走馬時代、ナイキプラネットの名で船橋競馬に所属した。引退後は福島で余生を過ごし、被災した。福島第一原発から20キロ圏内にいたため、食肉にしてはいけないことを示す「凍結烙印(らくいん)」が今も身に残る。渡部さんは「やせ細っていましたし、津波で泥をかぶり皮膚病にもなっていました」と出会いを振り返る。懸命な治療で回復し5月で満19歳。元気に草地を駆け回り、牧場の看板馬となっている。

放牧地で草を食べる、厩舎みちくさにけい養される馬たち(厩舎みちくさ提供)
放牧地で草を食べる、厩舎みちくさにけい養される馬たち(厩舎みちくさ提供)

東日本大震災の被害に遭った被災馬は競走馬を引退した馬、重要無形民俗文化財に指定される福島・南相馬市の相馬野馬追に参加する馬なども該当する。認定NPO法人「引退馬協会」は震災発生直後、200頭以上を緊急支援。担当者は「広義で言えば当時300頭近くいたと思われます」と概算する。現在把握されているのは同協会の所有馬5頭(福島2頭、鹿児島3頭)、他オーナー所有馬11頭の計16頭。存命の馬も人も、高齢化は進む。

厩舎みちくさにある獣魂碑(厩舎みちくさ提供)
厩舎みちくさにある獣魂碑(厩舎みちくさ提供)

強固な意志と生命力で、細い糸をつないだ。日常を取り戻した被災馬が背負う使命とは-。

渡部さん 馬を取り巻く環境だけでなく、牛や豚など他の動物はどんな状況だったのか。それを知るきっかけになってほしいです。

馬や希少原種の豚などの特例を除き、大半の動物は避難区域外への移動を制限された。事実としてあった“命の線引き”。風化を防ぎ、前進するために。今日も生きる。

【桑原幹久】(ニッカンスポーツ・コム/競馬コラム「ケイバ・ラプソディー~楽しい競馬~」)

■会員を募集中

引退馬協会は「被災馬フォスターペアレント」会員を募集している。一個人が被災馬の里親になれる制度で、同協会のホームページから申請し支援ができる。厩舎みちくさでは現在、一般見学を行っていない。会員枠で見学ができるほか、同協会が開催する「福島ツアー」参加者のみが見学可能となっている。