日本シリーズも決着がつき、プロ野球界に本格的なオフシーズンが到来した。今冬は新型コロナウイルス禍の影響もあって、自宅でテレワークに専念する日も少なくない。せっかくだからとメモ帳やデータを整理していると、「10・02」という数値が目に留まった。

今季、阪神藤浪が奪三振率でキャリアハイを記録していた事実に気付いたのは、恥ずかしながらつい先日のことだ。奪三振率とは、投手が1試合9イニングを完投したと仮定した場合の平均奪三振数。藤浪は今季24試合76回1/3で85三振を奪っており、奪三振率は初めて10を突破して10・02まで上昇していた。

これは最多奪三振のタイトルを獲得した15年の9・99を上回る数値だ。15年といえば28試合先発で14勝7敗、防御率2・40とエース格の働きを続け、199イニングで221三振を奪ったシーズン。あの1年の奪三振率を超えていたのだから、相当にハイレベルな数値であることに疑いの余地はない。

念のため、過去7年間の記録と比較してみた。高卒1年目から先発ローテを守っていた13~16年の奪三振率は9・35。一方、制球難に苦しんだ17~19年の奪三振率は7・64まで落ち込んでいた。それが今季はV字回復を遂げた形だ。

奪三振率は先発投手よりも救援投手の方が高い傾向にある。藤浪は今季24試合登板のうち13試合が救援マウンドだった。リリーフ登板の多さが奪三振率を回復させたのか? そんな想像もしてみたが、今季先発した11試合の奪三振率は10・18とさらに高かった。

今季の規定投球回到達者で奪三振率セ・リーグ1位は広島森下で9・10、同2位の中日大野雄は8・96だ。イニング数に大きな差があるとはいえ、藤浪の10・18という数値がセ界全体の先発投手を見渡しても高水準にあるのは間違いない。

20年、特にリリーフ登板を経験した9月下旬以降の藤浪は、誰の目にも剛腕だった。象徴的なボールは球団最速162キロを計測したストレート。一方で、今季は球界屈指のスピードボールに勝るとも劣らないインパクトを残し続けた球種があった。150キロに迫る高速フォークだ。

以前、藤浪はフォークについて「どうしてもボールゾーンに投げようとしすぎて振ってもらえない時もあった」と反省していた。そんな経験も糧に、今季はストライクゾーンに近い高さに落として空振りを奪う場面が多く見られた。「手首を立てて投げよう」-。19年秋、20年春のキャンプで指導を受けた元中日・山本昌臨時コーチの教えも、フォークの“抜き”を良くしたのかもしれない。

160キロ級の直球と130キロ台のカットボール、スライダーが中心となる配球の中、スピード、落差ともに申し分ない高速フォークを1年間意識させ続けられたことも、奪三振率向上を後押ししたと推測して問題なさそうだ。

もう何年も前になるが、奪三振へのこだわりを本人に尋ねたことがある。「う~ん…アウトを取る1つの手段にすぎないですかね」と苦笑いしつつも、「三振は捕手に捕ってもらえばいいだけなので」とも表現していた。バットに当てられればポテンヒットもあれば、不運な内野安打もある。三振は1番確率の高いアウトの取り方、という考え方は今も変わらないだろう。

21年、藤浪は先発に戻る。完全復活へ、再び注目が集まる1年。奪三振だけがピッチングでないことは百も承知なのだけれど…。やっぱりどうしても、勝負どころで奪三振に雄たけびをあげる姿をついつい楽しみにしてしまう。【遊軍=佐井陽介】