年は取りたくない。名古屋場所が終わり、大阪に戻って家で朝起きたら、右肩が痛い。肘を曲げても、前後左右、どっちに腕を振っても脂汗をかくほど痛い。我慢できず病院に行った。「先生、これって、いわゆる50肩ですか?」。すると即答で「そうですよ。気をつけてくださいね」。…気をつけるも何も、寝てただけやのに…。54歳にもなると、若い頃には想像もせんかったことが起こるもんです。

そう言えば碧山がよく年のことを口にします。「僕もう、おっさんですよ、おっさん」。いやいや、まだ33歳やん。「そうですよ、もう33歳ですよ。おっさんですよ」。…相撲の世界では確かにそうか。

体重150キロ以上が当たり前の関取衆は、一般人には想像もつかん負担を体に掛け続けてます。毎日稽古して、年に6場所、計90日もガツンと相撲をとってるわけで程度の差こそあっても膝、腰、首と体中を痛めてします。おまけに場所の合間は巡業で全国行脚。バス移動がほとんどやけど、これがまたきつい。何せ、あの巨体です。長時間座ったままやと腰に来るしね。そうなると、ゆっくりけがを治す暇もない。

今、頑張ってほしい、心配に思う“年頃”のお相撲さんが何人かいますが、32歳の栃煌山もその1人です。

07年春場所の新入幕から幕内の座を74場所守ってきた。ちなみに現役では白鵬の91、琴奨菊の85、鶴竜の76に次ぐ4番目の記録やから、すごいことです。ところが、東前頭12枚目で迎えた名古屋場所は5勝10敗と負け越した。秋場所の幕内キープは微妙な状況です。

彼はすごく真面目です。朝稽古では全体メニューが終わった後、居残りで付け人相手に立ち合いの確認をするのがルーティン。最近は自分の“軽さ”が気になっているようで「踏み込み、立ち合いの低さ、強さ」を求めて、四股、てっぽう、すり足、股割りといった相撲の基礎稽古を見直す日々を送っています。186センチ、156キロの体は、大型化が進む角界ではむしろ小柄の部類に入りつつあるのも事実。名古屋場所では「1歩目はよくなってきたんですけど、まだ2歩目以降でなかなか力が(相手に)伝わらない」とこぼしてました。

もう2歳になる長女稟(りん)ちゃんがいます。「パパって呼んでくれるようになったんですけど、僕やなく、壁に貼ってる僕のカレンダーを指さして“パパ、パパ”言うんですよね」。稟ちゃんが物心ついて、はっきり「パパ」とわかるまで、三役の常連やった“強い栃煌山”であるために、あと一踏ん張りも二踏ん張りもせなあきません。

私たちマスコミはどうしても新鮮な若手、新顔に飛びつきがちです。でも、いわゆる“おっさん”つまりベテランが強くて初めて、若手も輝く。栃煌山のような踏ん張りどころのお相撲さんに注目して、ぼちぼち秋場所取材の準備を始めようかと思ってます。50肩を治してから。【加藤裕一】

(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)