お笑いコンビ、パックンマックンのパックンことパトリック・ハーラン(49)が著書「ハーバード流『聞く』技術」(角川新書)を出版した。米国ハーバード大を卒業して93年に来日。お笑いでブレークし、東工大講師やキャスターも務めるコミュニケーションの達人に、その極意を聞いた。

★「池上彰さんになりたい」

「ハーバード流-」は、14年に出版した「ツカむ!話術」シリーズの第3弾。ハーバード大卒の頭脳と、お笑いで鍛えた話術でコミュニケーション能力の向上を説いている。

「日本の人のコミュニケーション向上について考えました。コミュニケーションを取るのに大切なのは、やっぱり聞くこと。耳から始めないと、話術はあまり意味がないんです。相手が反応するポイント、相手が欲しているもの、相手が大事にしているものをつかんでおくようにしないと、自分の意思は伝わらない。自分の価値観だけで話しても、駄目なんです」

相手に7割しゃべらせて、自分が3割の「70/30ルール」。自らの心に聞いて、相手の話を聴いて、分からなければ訊いて、自分の人生に効く「聞く・聴く・訊く・効くの4段活用」。独自のコミュニケーション術を米大統領やお笑い界の例を出して説明している。12年からはジャーナリスト池上彰氏(69)の推薦で東工大リベラルアーツセンターの非常勤講師を務めている。

「日本の人がコミュニケーション能力をアップするプログラムを考えています。どうしたら、もっとうまく世界と意思のやりとりができるのかと。池上さんは以前、僕のラジオにゲストで来てくれて、次に僕を呼んでくれました。そこから、ずっとお世話になっています。ある日、突然電話がかかってきて『講師をやらないか』って(笑い)。何でも知っている人で、何でも答えてくれる人。ソースがしっかりしているから、信頼感がある。池上さんみたいになりたいけど、なれない。池上さんに似ているパックンでいいかな」

マラソンの高地特訓で有名な、米国コロラド州コロラドスプリングズ出身。ハーバード大4年の時に合唱部のツアーで日本を訪れた。当時、日本語は全く知らなかった。

「飛行機で平仮名、片仮名を覚えただけ。仲間は3週間くらいで帰ったけど、僕は幼なじみに『福井で英語の講師をやるから来ないか』って誘われて残ったんです。5歳くらいからずっと勉強の人生だったから、ひたすら頑張るだけの人生は嫌だなと。冒険をしたい、面白いことをしたい、ちょっと変わった仕事をしたいと。偶然が重なりました」

★マックンと大げんかも

福井駅前の交番で英会話学校の場所を聞いて、履歴書を持って飛び込みで就職活動。3校目で就職が決まり、労働ビザを取って再来日した。以来、27年がたった。

「長かったね。お母さんには『1年だけ行ってくるよ』って。申し訳ない(笑い)。それまで、日本の地名は東京、大阪、広島くらいしか分からなかった。ジャッキー・チェンを日本人じゃないかと思っていたくらいだから。でも、日本に来てから日本語を覚えたのがよかった。日本で日本人から学んだから、イントネーションとかがよく分かる。そんなこと言いながら、なまってますけどね(笑い)」

96年に俳優を目指して、福井から上京。CMや再現ドラマに出演しているうちに、コンビを組むことになるマックンこと吉田真(47)を紹介された。

「エキストラとかをやっていたんだけど脇役じゃなく主人公を務めたいという野心があった。お笑いブームだからと、相方を探している芸人の卵のマックンを紹介されました。まずは友達として付き合って、コントをやり出したら評判がよくて、とんとん拍子。外国人と日本人というコンビは、ほとんどいなかったから珍しかった。大げんかをしたこともあったけど、マックンがオーバーアクションの僕に『お前の存在自体が大げさだから普通でいいんだよ』って言われて。それを聞いて、淡々と日本語で漫才をしてみたらウケた」

01年にはNHK「爆笑オンエアバトル」で注目された。ピンでは03年から特番が放送されたNHK「英語でしゃべらナイト」のレギュラーに起用された。出演者全員が基本的に英語でしゃべる知的バラエティーでパックン人気が定着した。

「今、思うと画期的な番組でしたね。一緒に出ていた釈由美子さんも押切もえさんも、ものすごく頭が良かった。京大卒の松本和也アナウンサーがボケキャラだったのもウケました。終わって、もう10年以上たつんですね」

★子はバイカルチャーに

プライベートでは13歳の男の子と11歳の女の子の父親。子供とよく遊ぶ、よきパパだ。

「一緒に卓球もやるし、テーブルサッカーもやる。レスリング、ボードゲーム、一緒に映画も見るし、一緒に寝るし、一緒にお風呂も入る。時間がある時は朝ご飯も作ります。若い時はけんかをしたマックンとは今は家族ぐるみの付き合い。マックンの娘がウチに泊まりに来るし、僕の息子をマックンに預けて釣りに連れて行ってもらっています」

娘はミュージカル女優になる夢を持ち、息子はゲームが好きで、最近はプロレスに興味を持ち始めた。

「ウチの娘はビックリするほどかわいいよ。ダンスもうまい。ミュージカル女優になるのを止めはしないけど心配。難しい世界だからね。女優を目指してもいいけど、あくまでも学業優先ですね。子供たちに対する僕の狙いはバイリンガルだけじゃなくバイカルチャー。日本とアメリカ、2つの文化を併せ持った人間に育てたい。聞く力、伝える力を兼ね備えた人間になってくれたらいいですね」

今年11月には50歳になる。人口30万人のコロラドスプリングズからアメリカの最高学府に学んだ青年が、日本で人気者になった。

「ライフワークは、まだ道半ば。コミュニケーションを取って教育、政治、世界においての日本の役割とか、いろいろと僕の考えを伝えていきたい。みんなを元気にできるように頑張りたい。まあ、食いっぱぐれないことが第1目標かな(笑い)」

グローバルな時代。笑いと知性を武器に、日本と世界の懸け橋になる存在だ。【小谷野俊哉】

▼角川新書の担当編集者・蔵本淳氏(33)

パックンは、ハーバードの比較宗教学部で、いろいろな宗教のいろいろな考えを学んだことで、バイアスを外してものを見ることができます。非常にバランスが取れていて、自分の意見もちゃんと持っているけど、フラットに物事を判断しています。自身が考えているのとは違う視点から質問することもできて、客観性が高い。真面目だけど、ユーモアもある。日本語はしゃべりだけでなく文章もしっかりしていて、手書きの漢字以外は大丈夫。四文字熟語やことわざもよく知っていて、常に新しい言い回しを探している方です。

◆パトリック・ハーラン

1970年11月14日、米国コロラド州コロラドスプリングズ生まれ。93年ハーバード大比較宗教学部を卒業し来日。97年吉田真とパックンマックン結成。03~09年NHK「英語でしゃべらナイト」。現在レギュラーはAbemaTV「AbemaPrime」(水曜午後9時)、BS-TBS「報道1930」(金曜午後7時30分)など。12年10月から東工大非常勤講師。ふくいブランド大使。183・5センチ。血液型O。

◆「ハーバード流『聞く』技術」

相互理解をするためには、聞き方が重要と説明する。さまざまな事例の聞き方を解説、それらを人生のあらゆる場面で役立つものにするテクニックを紹介。聞くことで、有効な話し方ができるようになると説く。税込み946円。

(2020年4月19日本紙掲載)