【今週の言葉】「プロデューサーが『どうしてもこれがやりたい』というものが出発点となり、企画ありきの考えをブレずに大事にしてきた」

「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS
「私の家政夫ナギサさん」(C)TBS

「半沢直樹」「私の家政夫ナギサさん」「MIU404」など、高視聴率連発のドラマ枠の好調について、TBS瀬戸口克陽編成局長が8日の改編説明会で述べた言葉です。

“ドラマのTBS”とよく言われますが、その神髄は、昭和から続く強烈なプロデューサー主義にあります。長所も短所もありますが、16年の「逃げるは恥だが役に立つ」の成功で自信を取り戻して以降、このプロデューサー主義がうまく回っている印象です。

プロデューサー主義とは、ざっくり解釈すると、「演出の最終決定権者はプロデューサーである」ということ。番組の最高責任者であることは各局同じですが、TBSほどプロデューサーが自らの世界観でモノを作る局はありません。

「半沢直樹」の伊與田英徳氏は「下町ロケット」「ノーサイド・ゲーム」「グランメゾン東京」、「MIU404」の新井順子氏は「Nのために」「アンナチュラル」「中学聖日記」など、一目で分かるカラーがあるんですよね。最終回視聴率19・6%を記録した「私の家政夫ナギサさん」の岩崎愛奈氏は、今回が初プロデュース。自身がアラサーの新婚であり、仕事との両立で思うところを作品に込めました。同世代の女性のハートをつかむ作風で、今後のTBSドラマのプロデューサー列伝に加わっていくのだと思います。

企画を立て、イメージするスタッフとキャストを集め、頭の中のイメージと違えば脚本家にも主題歌にもとことん直しを要求し、制作の陣頭指揮をとる。スター脚本家や売れっ子クリエーターの意向をうまく具現化するのが優秀なプロデューサー、という方向性とはかなり異なります。石井ふく子プロデューサー(94)が今でも橋田寿賀子さんに妥協なく直しを求める過程を見ても、昭和から続くTBSカルチャーと言えそうです。

もちろん、プロデューサー主義は長所ばかりではありません。遊川和彦氏や福田雄一氏など、自ら演出も手掛けるタイプの作家と組むのは得意ではなく、「今日から俺は!!」のような話題作はよそに持って行かれることになります。

「内容は素晴らしいのに視聴率が伴わない」というケースが散見されるのも、プロデューサー主義ならでは。最近では「中学聖日記」などはその典型例と感じます。アンチが多いテーマであるのは分かっているにもかかわらず、プロデューサー主義なので、上も横も口を出さない社内流儀。そもそも、個々が強烈な“一国一城のあるじ”なので、びっくりするほど横のつながりがありません。記者懇親会などで集められたプロデューサー同士が「お会いしたかったです」と名刺交換する光景もよく見掛けます。

1月期のように「恋はつづくよどこまでも」と「病室で念仏を唱えないでください」の病院モノが自局でかぶるのも、他局のように企画段階のどこかで枠や内容を合議することがあまりないためとされます。編成部も「反省点」としながらも「プロデューサーがやりたいというのだから仕方がない」というスタンス。そのくらいプロデューサー主義は徹底しています。

うまく回っている時はいいのですが、当たらない作品が増えて迷いが生じてくると、一気に迷走する危険性もあります。00年代は特徴的で、クールの全作品が1ケタだったり、平均5~6%あたりを量産したり。07年には、当時の井上弘社長が「早く終わってくれないかと思う。視聴率表を見るのが憂鬱(ゆううつ)」とぼやいて話題になりました。16年に「企画重視」を打ち出し、「逃げ恥」の成功で自信を取り戻したことや、17年にドラマ枠を3つに絞って品質を上げたあたりから、プロデューサー主義の長所が右肩上がりな感じです。

10月期は、日曜劇場は東野圭吾原作の「危険なビーナス」(主演妻夫木聡)、金曜ドラマはマンガ原作の「恋する母たち」(主演木村佳乃)、火曜ドラマはオリジナルの「この恋あたためますか」(主演森七菜)のラインアップ。瀬戸口局長は「心地よいプレッシャーを感じながら作品を作っていけるのは恵まれた状況。目指した山頂に行き着けるよう、フルスイングしてもらいたい」と話しています。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)