FIFA女子ワールドカップ(W杯)ニュージーランド・オーストラリア大会準々決勝のスウェーデン戦から44時間後。5得点の大活躍を見せたなでしこジャパンMF宮沢ひなた(23=マイナビ仙台)は、激しく雨が降る神奈川・小田原市の城山競技場にいた。

同所では、ひなたが「憧れ」と慕う兄佳汰さん(27)が所属する神奈川県社会人3部リーグ、久野FCの試合が行われていた。

2日前の激闘地、ニュージーランドのイーデンパークから約8800キロ離れた城山競技場は、久野FCのホームグラウンドだ。ひなたは「まさか日本に帰ってきて、こんなすぐにサッカーを見ているとは」と笑った。

12日の午後10時過ぎに羽田空港に到着。大荷物を運ぶために佳汰さんに迎えを頼んだ。メディア対応などを終えて、佳汰さんの家に着いたのは日付が回った13日午前1時過ぎだった。

13日朝、南足柄市の実家に戻り、愛犬と昼寝をしてから会場に訪れたという。「(佳汰さんが)見に来なよっていうので」。

試合は、2-2で終了した。佳汰さんは得点に絡むことはできなかったが、何度も蹴ったコーナーキックを含めて、雨でぬかるむピッチの中、確かな技術力を随所に発揮。妹のような爆発的なスピードで相手を置き去りにするというよりは、背番号10らしいテクニシャンスタイルで攻撃をけん引した。

試合後、兄の元に歩いてきたひなたは「ボールが重そうだったね」と言った。佳汰さんも「うん、重かった」と応じる。「雨でやりづらそうだったね」。「うん」。自然発生的に試合後の「意見交換会」が始まった。

佳汰さんは「いつもこんな感じなんですよ」。ひなたは「『反省会』なんてものでもないんですけどね」と続けた。

いつしか始まった「意見交換会」は、W杯期間中も、毎試合後に電話で行われていた。今回は佳汰さんの試合を見てひなたがコメントする番だった。本当に兄妹の仲が良い。ひなたは「お互い、いまだにサッカーをやっているからだと思いますね」とその理由を明かした。

2人が話をしていると、佳汰さんのチームメートが絡みに来る。「ひなたじゃん! お疲れ!」「お帰り~」「ナイスシュート」「澤(穂希)さんって呼べばいい?」。ひなたはうれしそうにつっこんだり、笑ったりして応じていた。「みんな、お兄ちゃんみたいな感じなんです。(私のことを)弟だと思っている(笑い)。やっぱり地元っていいですね」と穏やかな表情で言った。

これまで小田原市リーグで活動していた久野FCは、今季から神奈川県3部リーグに参入。これまで関東リーグなどでプレーしていた佳汰さんも、今年からチームに加入した。佳汰さんの地元のサッカー仲間が多く、ひなた自身も幼い頃に一緒にプレーした選手もいる。オフには久野FCの試合前のウオーミングアップに入ってボールを蹴ることもあるといい「普通に強いパスとか来るんです(笑い)」。すっかりチームの一員に溶け込んでいた。

この日はひなたの帰国後、初めて家族そろって食事をとるという。何を食べに行くのか聞くと、佳汰さんは「お母さんはたぶん、ご飯作りたいと思うんですよね」。ひなたは「うーん。こんなに早く日本に帰ってくるはずじゃなかったんでね~(笑い)」と本音をこぼした。

W杯を勝ち進んでいれば15日に準決勝、20日に決勝の予定だった。個人としての活躍はありつつも、チームとして目標の世界一を逃した悔しさは忘れられない。

なでしこジャパンは、9月23日に国際親善試合のアルゼンチン戦、10月からパリオリンピック(五輪)のアジア2次予選、来年2月の同3次予選と続いていく。ひなたは「意外と代表のスケジュールは詰まっているんですよね」と気を引き締めた。

W杯後、佳汰さんは「縦への仕掛けが今後の課題だね。1人で打開できる術をつけたいなら、もっとチャレンジ量を増やしてもいいんじゃないかな」と伝えたという。去り際にこちらが「次はパリ五輪で」と伝えると、ひなたは「はい、頑張ります!」とはっきりと言い切った。

カテゴリーに関係なくサッカーに向き合って貪欲に吸収する。W杯で大飛躍したスピードスターが1年後、どんな成長を遂げているのか。パリへの歩みはもう始まっている。【佐藤成】