新型コロナウイルスの感染拡大の最中でも、知恵を絞り、児童養護施設への“訪問”を続けているJリーガーたちがいる。
J2東京ヴェルディMF小池純輝(32)と徳島ヴォルティスMF梶川諒太(31)が設立した、サッカーを通じて児童養護施設の子供を支援する活動団体「F-connect(エフ-コネクト)」のメンバーだ。現在、7人の現役選手と、1人の元選手の計8人が参加。新型コロナウイルスの影響で、直接訪問が厳しい現在も、ビデオ会議システム「Zoom」を使用し、4月14日に神奈川、同16日に徳島の児童養護施設の子供たちと交流。近日中に他地域の施設も訪問予定だ。
神奈川の児童養護施設には小池、梶川、大分トリニータMF野村直輝(29)、元FC琉球MFで現役を引退した新井純平氏(25)の4人が、ウェブを通じて“訪問”した。小池は「今の状況で、どういう感じで子供たちと関われるか考えた時、Zoomの存在を知りました」。団体の活動を支援する個人会員(賛助会員)の寄付金を利用し、Zoomと有料の契約を結び、ウェブ訪問を実現させた。モニター越しでお互いの顔を見ながら、トークで約1時間半、触れ合った。サッカーで遊ぶ直接的な触れ合いができなかったにも関わらず、小池は前向きだった。「神奈川の施設には、僕を含め4人で(ビデオ会議で)訪問しましたが、通常なら、活動地域が違う4人が集まって訪問することが難しい。逆に、この4人で“訪問”できたのは、オンラインの良さでもあるかなと思っています」。
徳島の施設には、昨季まで徳島でプレーした野村と、今季から徳島でプレーする梶川、徳島GK松沢香輝が「引き継ぎと顔見せ」を兼ねて参加。こちらも、ビデオ会議ソフトだからこそ、実現した組み合わせだ。野村は「去年、1度訪問した施設と交流しました。コロナの話題から、日ごろ何をしているかを話しながら、楽しい時間を過ごせました」。
◇ ◇ ◇
「F-connect(エフ-コネクト)」。「Footballでつなぐ、Footballで繋がる」をコンセプトに名付けられた支援活動の原点は2014年にさかのぼる。当時、横浜FCに在籍していた小池が、知人から神奈川県内の児童養護施設の訪問を私的に依頼され、当時湘南ベルマーレに在籍していた梶川を誘って訪問したことがきっかけだった。施設の子供たちと一緒にサッカーを楽しみ、食卓を囲んで過ごした。後日、施設で出会った子供たちをホームゲームに招待すると、右サイドで出場していた小池に、子供たちが90分間「小池選手、がんばれー」と声援を送り続けてくれた。もちろん、小池の耳にも届いていた。試合の勝ち負けにかかわらず、声援をくれたことがこの上なくうれしかった。
年末に、小池と梶川は、観戦のお礼も兼ね施設を再訪問した。小学校低学年の子供たちも、2人の名前をしっかりと覚えており熱烈な歓迎を受けた。一度限りの交流でなくなった瞬間だった。小池は振り返る。「梶川と2人で、子供たちに夢や目標を持っているきっかけづくりができないかなと。僕ら、夢をかなえたサッカー選手が、フットボールを通じて、何か影響を与えたいと思いました」。
◇ ◇ ◇
15年に、梶川がJ2のVファーレン長崎に移籍。2人の距離は遠くなったが、継続して支援活動を行う団体「F-Connect」を設立し、小池が神奈川、梶川が長崎で活動を広げていった。設立当初、2人の活動は交通費など自費でまかなう「手弁当」だった。その中で、同じ志を持つ仲間が増えていった。小池の横浜FC時代の後輩、MF野村(=現大分)もその1人だ。野村は、高校時代、児童養護施設から学校に通っていた友人がいた。高校時代に理解できていなかった施設を、小池の活動を通して深く知り、高校の友人に思いをはせ、自ら「行きたい」と志願したのだ。
小池は、16年にジェフ千葉、17年に愛媛FCと渡り歩き、移籍先の地でも地元の施設の訪問を続け、同志も増えていった。昨年は、1都5県15施設を17回にわたって訪問。ホームゲームの試合に、15施設のべ231人の子供たちを招待した。今では、その活動に共感し、支援する企業は7社になり、個人的な支援者(賛助会員)も45人にのぼる。2人で始めた活動が、大きな輪へと広がりつつあることに、小池は「何げない触れ合いの中から生まれたもので、6年前は想像できなかった。今年で6年たって、その輪も少しずつ大きくなって、賛助会員の方だったり、より関わりが強固なものになってきていると思います」と手応えを口にする。
◇ ◇ ◇
児童養護施設-。災害や事故、親の離婚や病気、虐待などさまざまな事情で、家族による養育が困難な18歳未満の子どもたちが生活する場所だ。心に傷を負っている子供たちもいる中で、訪問に躊躇(ちゅうちょ)はなかったのだろうか?
野村は「最初は、元気与えられたら、という気持ちで行ったら、子供たちがめちゃくちゃ元気で、逆に元気をもらう感じです。どこの養護施設にいっても同じなんです」。子供たちをホームの試合に招待したことを挙げ「ピッチで戦っている姿を見てもらって、夢や元気を与えられたらいいなと思っているんですけど、逆にまた、子供たちの姿を見ると、アドレナリンが出て頑張れちゃう。こっちがもらってばかりですよ」。
小池は、初めて訪れたある神奈川の施設の思い出が忘れられない。最初は、サッカー好きで積極的な子供が数人、ボールを蹴るだけだったが、時間がたつにつれ1人、2人と増え、暗くなるころには、施設の大半の子供がボールを蹴っていた。訪問を終えた後、施設の職員に「普段だったら、だれかがサッカーをやっていてもやらないような子が、一緒になってボールを追いかけていて驚きました」と声をかけられた。小池は言う。「アスリートの価値、スポーツの価値を感じる瞬間でもありました。僕らは今、サッカー選手ですけど、周りの人とつながりを持った中で、影響を与えられることができるんじゃないかなと気付かせてくれたというのもこの活動でした」。
子供たちは18歳になると退所し自立していく。親から受ける支援がなく、就職や大学進学が厳しいのが現状だ。夢を持ちにくい環境を理解した上で、小池は大きな目標を口にする。「僕たちはサッカー選手という夢がかなえられた。夢が持ちにくい環境かもしれないけど、選手をスタジアムで見たときに、僕も頑張ってみようとか、目標を持つ気持ちを持ってもらえたらと。14年からお付き合いがある子供だと6年たって、大きくなってきている。今後、18歳を迎える時が来て、進路の所でも関わって行けたら、最高だなと思います」。
◇ ◇ ◇
昨年から「F-connect」では、支援活動を「デュアルキャリア(2つのキャリア)」としてとらえる取り組みを強化し始めた。選手だけでなく、地域貢献を行うことで「人としての成長(キャリアアップ)」を目指すものだ。実際、メンバーは自身の手で直接、施設にアポイントメントを取り、新天地で自身の手で訪問する新しい施設を開拓していく。支援企業へのプレゼンテーション、支援者への報告会パーティーなどの企画も、自からの手で行っている。サッカー選手であると同時に、社会人としての「いろは」も身に付けている。
野村は、新卒で横浜FCに加入した当初、自身の考えを言葉にすることが苦手だった。だが、サッカー以外の世界との交流を持ち、人前で話す機会が増えたことで、少しずつ自身の思いを言葉で伝えることが苦にならなくなったという。プレー面でも、J2でしっかり結果を残し、今季からJ1の舞台にたどり着いた。今年から大分MF町田也真人も仲間に加わった。「F-connect」の活動が、J1へと広がりを見せている。
小池は、後輩の野村の成長に目を細め、将来の展望をこう見据えている。
「自分もいつかサッカー選手ではなくなる。サッカー選手の看板が外れても、F-connectの活動をしているなら、社会貢献も社会経験も積んでいると(世間に)思ってもらえるようになればうれしい。理想的なのは、いろんな地域で支援活動する選手がいるのが当たり前になってくれること、施設の子供たちが、当たり前のように夢や目標を語って目指してくれるような社会になっていってくれれば」。
小池と梶川が始めた小さな1歩が、大きな1歩になろうとしている。団体設立から、地道にコツコツ活動を続けて6年目。「F-connect」のメンバーの活動が、子供たちの夢の実現につながる日が来るはず-。それだけ、メンバーの思いは強くて熱い。
【岩田千代巳】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「WeLoveSports」)