【リオデジャネイロ19日(日本時間20日)=三須一紀】明日21日(同22日)、リオ五輪の閉会式が行われるマラカナンスタジアム近くの道端で「160円洗車」の仕事場がある。その中に3人の子どもを持つ20代の夫妻がいた。約1兆3000億円とも伝えられるリオ五輪の開催費用の傍らで、その日も「食べられるか分からない」と嘆く家族が、一生懸命働いていた。

 若夫婦は明らかに取材を嫌った。自分たちが1回5レアル

 (約160円)の洗車という仕事に就いていることに、納得していなかった。妻のハヤネ・クリシナ・オリベイラさん(25)は終始、悔しそうな表情。夫のジエゴ・デ・オリベイラさん(28)も1度も笑わなかった。

 生活のためだった。洗車料金に加え、取材へのチップを払うのがここでは常識。プライドと生活のはざまで、彼らは口を開いた。

 夫は政治不信から起きた不景気で昨年10月、工事関係の仕事をクビになった。妻もマクドナルドの店員をしていたが、子どもを抱える家庭には優しくない環境で、家の近くで子どもと一緒にいられる洗車の仕事を始めざるを得なかった。

 この日は日曜日だったこともあり昼営業。3台しか来ず、約480円の収入にしかならなかった。平日は夜中仕事。午後9時から午前4時まで夫婦で働く。子どもは祖母に預け、平均1日1600円の稼ぎだ。

 家族5人の1日の食費は約30レアル

 (約980円)という。コパカバーナ地区では1人分の昼食の値段だ。マラカナンスタジアムが開閉会式、サッカー競技で稼働している時は、仕事場の道も封鎖され、収入はゼロになる。五輪がうらめしかった。

 妻は「ここを出て、子どもたちのために大きな家がほしい」と言い、夫も「早く仕事を見つけたい」と語った。

 最後に家族写真をお願いした。夫妻の唇をかむ表情とは逆に、カメラを向けられ子どもたちは純粋に笑った。リオ五輪はこの子たちの将来に、何をもたらすのだろうか。