2メートル35の日本記録を持つ戸辺直人(29=JAL)が、日本勢として49年ぶりに臨んだ同種目決勝で、2メートル24の最下位13位に終わった。2メートル27で3度目の試技を失敗。それでも、約半世紀もの間、日本勢が届かなかった決勝の舞台で、国立の夜空へ飛んだ。

高く飛ぶ戸辺の体の秘密とは-。

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0・15秒-。走り高跳びは、その一瞬の踏み切り時に「1トンぐらい」の力を加えて舞う。なぜ高く跳べるのか? 複数ある要因の1つを、戸辺はこう明かす。「アキレス腱(けん)長いんです」。超音波などで測定する機械によって、その長さは分かる。一般的に「15センチで長い」というが、自身は「だいたい25センチ弱」。それが跳躍力を生み出している。

バネの強さはアキレス腱をどれだけ引き伸ばせるかで左右される。「膝なども使われているが、足が地面についたら、アキレス腱が引き伸ばされ、その張力で跳んでいるイメージ」。腱は鍛え方が難しく、筋を太くすれば、重くなる。「力の発揮速度」も遅くなり、「0・15秒」で最大の力を出せない。生まれ持ったアキレス腱の長さは、この競技で大きな利点になる。

もちろん天性のものだけではない。瞬時に強い力を地面へ出し切る独特の練習もする。「高跳び」ならぬ「高降り」だ。「1メートル60、70ぐらいから飛び降り、そのままジャンプする」。故障をしないよう注意を払いながら、約10年前から導入。「極めて短時間で、大きな力を出すのを練習で再現するなら、高いところから飛び降りるしかない」。194センチ-。その大きな体には、細部に宿る神業が詰まる。【上田悠太】