森永製菓トレーニングラボ(東京・港区)のアドバイザーで公認スポーツ栄養士の清野隼さん(35)が、高藤直寿の減量をサポートする。

大会7週間前から週1日を目安に胸囲や大腿(だいたい)囲、皮下脂肪の厚さなどを細かく測定。試合日から逆算して計画を立て、毎週の目標値を設定する。清野さんは感覚を大事にする高藤の性格を理解し、行動を押しつけるのではなく、注意点のみを伝え自律支援に徹している。それが自ら考える力を伸ばし、体重変化に応じた食行動の向上につながっている。

普段は筑波大体育系助教を務める陰の立役者は「年齢を重ねても、減量期間で体重がスッと落ちるのは高藤選手のトレーニングのたまもの。目標達成に向けたお手伝いができればと思います」と、金メダル獲得を期待した。

   ◇   ◇   ◇

高藤が進化に自信を見せている。今月上旬、1年2カ月ぶりの実戦となったアジア・オセアニア選手権(キルギス)を優勝で締めくくった。オリンピック(五輪)前の最終戦を終えて「この1年間の積み上げは間違っていなかった。残り3カ月はやり残しがないように、人生をかけて死に物狂いで準備する」と決意を示した。

95日後に迫る大勝負に向け、コンディションを左右するのが減量だ。最も過酷な最軽量級で15年間トップに君臨する27歳は、17年12月のグランドスラム(GS)東京大会決勝で全身がつるアクシデントに見舞われた。体に負荷をかける急激な減量に原因があった。これを機に、東海大の先輩の羽賀龍之介(29=旭化成)に栄養士を紹介してもらい、18年1月から助言を受けている。3年間計測したデータを参考に、試行錯誤を重ね、自身に適した減量法を編み出した。

本格的な減量は、試合1カ月前から始める。それまでに通常69キロ前後ある体重を、下地とする64キロまで落とし「ガチガチの減量」を開始。1日3回の食事の栄養管理を徹底し、心身の負担を軽減するために1週間1キロ目安で落とす。早く落としても、パフォーマンス低下が懸念されるため62キロ程度で現地入り。最終調整後、ホテルの湯船などで発汗して50グラム単位で水分調整し、試合前日の計量を59・7~59・9キロでパスする。

これが高藤流の減量で、ポイントは3点ある。

(1)食事のメリハリ 通常は制限なく好きな物を食べる分、減量期に入ると「減量=仕事」と割り切って前向きに励む。ご飯の量を減らして野菜を増やし、おかずも薄く味付けする。大好きなジュースもNG。試合数日前のご飯の量は500円玉サイズになり、フルーツなどで調整する。

(2)ストレスをためない 減量初期が最も空腹になり、満腹感を得るものを工夫して食べる。朝食は栄養価が高く、胃に優しいオートミールをおかゆ風に。好みでグラノーラやツナ缶、ホットミルクなどを加える。昼食は元柔道家の妻が考案した、糖質オフ麺など使った減量めし「高藤丼」を口にする。我慢の限界を超えたら食事制限なしのチートデーを作り、その分体を動かす。

(3)目標設定 「大会で優勝して、帰りに○○(店名)のステーキを絶対に食べる」などと最終ゴールを決める。精神面の支えとなり、大きなモチベーションになる。特に国際大会の往路の機内は「地獄」で、食事の際は寝たふりやゲームでごまかしながら「帰りは腹いっぱい食べてやる」と自身に言い聞かせる。

昨年12月には試合がないのにあえて60キロに落とした。コロナ禍で五輪が1年延期となり、試合勘と同様に減量の感覚を取り戻すためだった。全ては五輪で夢をかなえるため-。1年前に吉田秀彦総監督(51)からもらった手作りの金メダルを“本物”に変えることを誓う。

「リオ五輪の時よりも確実に強くなっている。吉田監督には『五輪で金メダルを獲得したら本物だ』と何度も言われているので、心技体全てにおいてもう1段上げて7月24日を迎えたい。五輪の借りは五輪で返す」

己の体と向き合う27歳の柔道家は、万全の準備を整えてリベンジの夏を迎える。【峯岸佑樹】

 

○…近年、プロテインが注目を集めている。アスリートの“必需品”は一般まで広がり、肉体改造には欠かせないアイテムとなった。20年の市場規模は約770億円で、過去10年間で6倍に拡大。背景には健康志向の高まりと、コロナ禍の影響で運動不足により減量を含めた筋力強化に取り組む人の増加がある。各企業が「減量」「美容」「健康」などのキーワードを前面に打ち出し、プロテイン商品を購入する女性比率も高まっている。今年2月にスポーツ庁が発表した調査によると、「成人の週1日以上のスポーツ実施率」は、79年の調査開始以来過去最高となった。