男子66キロ級の阿部一二三(23=パーク24)と妹で女子52キロ級の詩(21=日体大)が、同日に金メダルの快挙を成し遂げた。

性別の異なるきょうだいが、五輪のメダルを取るのは日本初。詩は決勝でライバルのブシャール(フランス)に延長の末、一本勝ち。52キロ級で日本初の金メダルを獲得した。一二三は決勝でマルグベラシビリ(ジョージア)に優勢勝ち。66キロ級では08年北京五輪以来となる3大会ぶりの金メダルとなった。

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妹を追うように、兄の一二三は五輪王者の称号を手にした。詩とは対照的な控えめなガッツポーズ。しかし、畳を下りると、「兄妹優勝」の現実を受け止め、涙が止まらなかった。「妹が先に金メダルを取ってすごく燃えた。やってやると。ついに歴史に名を刻めた」と充実感を漂わせた。

一二三はリオ五輪後の2年間は“無敵”で国際大会34連勝するなど詩とともに「東京五輪の星」と注目を集めた。しかし、その後丸山城志郎(ミキハウス)に直接対決で3連敗。この試練がさらなる成長につながり、昨年12月のワンマッチによる代表決定戦でライバルとの決着をつけた。24分間の死闘。重圧をはねのけ、五輪以上の張り詰めた空気の中で、新旧世界王者対決を制した。日体大時代に指導した山本洋祐氏は「歴史的な一戦を経験して精神的にも一回り強くなった」と評価した。

一二三の強みは、周到な「準備力」だ。実は東京五輪を見据えた上でワンマッチの準備を進めていた。味の素ビクトリープロジェクトのサポートを得て減量法を見直し、戦略的な栄養補給を導入。さらに本番に近い緊張感を味わうために、試合2週間前に故障リスクが懸念される中、試合と同じような模擬試合を行った。この日の大一番を想定して、14日に日体大で実施。会場の入り時間や試合時間も計算して、ほぼ五輪と同じ時刻に73キロ級の強豪選手たちと3試合対戦した。

苦難を乗り越え、持ち前の豪快な柔道だけでなく足技も駆使して「ワンチャンスをものにする力」も身に付けた。両親から「一歩一歩進んでほしい」との願いを込めてつけられた名前の通り、絶対的な強さを手にした兄が妹とともに念願の「輝く1日」にした。【峯岸佑樹】

◆阿部一二三(あべ・ひふみ)1997年(平9)8月9日、兵庫県生まれ。6歳で柔道を始める。兵庫・神港学園高2年の時、17歳2カ月の史上最年少で14年講道館杯を制覇。17、18年世界選手権優勝。19年世界選手権3位。世界ランク5位。右組み。得意技は背負い投げ。好きな食べ物は焼き肉。168センチ。血液型AB。

<阿部兄妹の同日金メダル>

◆兄妹のメダリスト 日本オリンピック委員会(JOC)によると、五輪で性別の異なるきょうだいがメダルを取るのは、夏冬を通して日本勢初。

◆同日金メダル 夏季五輪で日本勢初。冬季大会では18年平昌大会のスピードスケート女子の団体追い抜きで高木菜那、美帆の姉妹を擁する日本が優勝。