この階級の中で素根輝選手はかなり小柄なので、本当に組み手争いが生命線だと思っていました。組み手で不利になった状況で、体格で上の相手に捨て身で技を掛けられると、やはり投げられてしまうものです。絶対に不利な組み手にはしない、という厳しさが見えました。もともと定評があった組み手ですが、近年、さらに向上しました。得意な組み手になり、大きい相手を倒しやすい体落としや大内刈りが決められたのだろうと思います。

素根選手もパワーはありますが、体重差、体格差はどうにもできないもの。その分、練習量で強靱(きょうじん)な下半身と組み手の強さを身につけていましたね。あの技の豊富さも組み手の厳しさがあるからだと想像します。よく「人の2倍は練習します」と言いますが、素根選手は本当に人の3倍は練習しています。普通の乱取りは多くて10~12本ですが、素根選手は平気で30本以上やります。それぐらいやらないと勝てないという危機感が常にあるのでしょう。

3倍の練習で自信をつくりあげ、後悔なく五輪の舞台に立っていたなと。あの冷静な柔道から感じました。(08年北京、16年リオデジャネイロ五輪銅メダリスト)