東京オリンピック(五輪)の観客について協議する国際オリンピック委員会(IOC)、政府、東京都などによる5者協議が8日に開かれ、1都3県(埼玉、千葉、神奈川)の競技会場を無観客とすることを決めた。新型コロナウイルスの新規感染者が増加傾向にある東京都に12日から緊急事態宣言が発令されることを受け、苦渋の決断を下した。延期に続き、開催都市での無観客は史上初となった。

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開幕15日前の土壇場の決定だった。先月21日、観客上限について「定員の50%か1万人の少ない方」と方針を固めたが、わずか2週間余りで方針転換。「完全な形」とは程遠い、無観客での開催が決まった。元アスリートとして選手のために有観客論を強く持っていた組織委員会の橋本聖子会長だが、「極めて限定的な大会になることは大変残念。チケット購入者、地域の方には申し訳なく思っている」と肩を落とした。

事態は7日に一気に動いた。東京都の小池百合子知事は同夕方、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長と都庁で面会した。関係者によると、都内会場の無観客方針をここで協議。夜には組織委などにその方針を伝えた。自身が最高顧問を務め、無観客を選挙公約に掲げた都民ファーストの会が都議選で下馬評を覆し、第2党に。その結果を受け大会関係者は「小池知事にとって、都内無観客が政治家として最も整合性がつく結論だ」と語った。

一方で有観客を目指し、6月20日に緊急事態宣言を解除した政府だが、その直後から菅首相が宣言再発令なら「無観客もあり得る」と言い続けたことが尾を引いた。組織委幹部は「普通、緊急事態宣言でも5000人までは観客を入れられる。サッカーだって野球だってそう。でも首相が『宣言なら無観客』と言ってしまった。これで五輪も5000人と認めれば整合性がつかず、後に引けなくなった」と分析した。

都以外の首都圏も最後まで足並みがそろわなかった。5者協議の直後に行われた関係自治体等連絡協議会の開始まで、事務方が水面下の調整に追われていた。政府関係者によると埼玉県や神奈川県が夜間のセッション以外は、有観客の選択肢も模索していたという。ただ、千葉県だけが全試合無観客の姿勢を崩さず、東京都に準ずる形で結局、まん延防止等重点措置の3県も無観客となった。

安倍前首相が「人類が感染症に打ち勝った証しとして完全な形で開催を」と述べ、菅首相も「コロナに打ち勝った証し」として開催するはずだった東京五輪。コロナを前に1年の延期では「完全な形」に程遠いものとなる。【三須一紀】