「聖火」は五輪の象徴的な存在です。古代オリンピックでの慣例が近代五輪で復活したのは、1928年の第9回アムステルダム大会から。聖火リレーはさらに遅れて、36年の第11回ベルリン大会からでした。

入場行進後の聖火点火式は、開会式のハイライトです。64年東京大会では19歳の坂井義則が国立競技場の階段を駆け上がって火をつけました。原爆投下の日の広島で生まれた早大競走部員の起用で、敗戦から立ち直った日本は全世界に「平和」を発信したのです。

最終点火者には、五輪金メダリストなど開催国を代表するアスリートのイメージがあります。実際に96年アトランタ大会はボクシングのアリ、08年北京大会は「体操王子」李寧と世界的な知名度が高いスーパースターが務めています。

もっとも、無名の若手が起用される例も少なくありません。12年ロンドン大会は7人の五輪金メダリストがそれぞれ1人を指名。非アスリートも含む7人が務めました。88年ソウル大会も教師とダンサーという一般市民が若手陸上選手とともに点火しました。

大会側は、聖火の最終ランナー(点火者)にリレーされてきた火とともに、メッセージを託します。開会式のテーマ、大会のコンセプト、開催都市や国の「思い」…。アリの起用は反人種差別の意味があり、00年シドニー大会のフリーマンには先住民族との共生の思いが込められました。

夏季大会最終点火者の最年少は76年モントリオール大会の陸上選手、プレフォンテーヌの15歳。冬季では92年アルベールビル大会では9歳のスキー少年がサッカーの「将軍」プラティニとともに点火しました。単独でなく複数で点火する例も少なくありません。

1年延期された東京大会には、これまでの「復興五輪」に新型コロナに打ち勝つという新たなテーマが加わりました。誰が聖火の最終ランナーを務め、点火をするのか…。世界中が、そこに込められた日本のメッセージに注目します。【荻島弘一】