暗闇の中で黙々とランニングマシンを駆ける。会の序盤、「看護師ボクサー」として東京五輪を目指していた女子ミドル級の津幡ありさ(28)が、走り続ける姿があった。コロナ禍でも強い気持ちで鍛錬を続け、五輪を目指すアスリートの姿を体現した。離れていても、オンラインなどでつながるイメージをダンサーとCG映像の投影で描いた。

津端自身は選手としてはこの舞台に届かなかった。医療従事者とアスリートの二足のわらじをはいてきた。目の前の現実と夢。その葛藤を和らげてくれたのは仕事仲間。「応援してます」。そんな寄せ書きが心を癒やした。「みんなに恥じないように取り組まないと」と走ってきた。

今年2月、コロナ禍で世界最終予選の中止が決定した。リングに上がることなく、道は絶たれた。「すぐはショックで。でも…」。頭に浮かんだのは、周りの顔。そのつながりに「努力と時間は無駄ではなかった」と感謝した。

競技歴は3年。18年にダイエット目的で始め、魅力にはまった。以前は東京の後は考えていなかった。いまは…。「目の前の大会を1つ1つやりながら積み重ね、国際試合などにつながれば」。一時は孤独の中を走ったこの1年間。積み上げてきた事実には他にはない価値がある。開会式でその思いを伝えた。