サッカー男子日本のGK谷晃生(20=湘南)が真の守護神になった。120分の死闘の末、PK戦に突入したニュージーランドとの準々決勝。谷が2人目のPKを完全阻止するなど4-2で制した。今年に入り正GKとなり、1次リーグから全4戦にフル出場し、失点はわずか1。1996年アトランタ五輪も経験した日本の守護神、元日本代表の川口能活GKコーチ(45)の指導も受け、安定感抜群のGKが悲願の金メダル獲得を目指し、最後尾で支える。

 

日本の守護神伝説を引き継ぐ男が現れた。190センチの谷は、PK戦2人目のシュートを自身の右に跳んで両手で完全セーブ。3人目は相手のコースを読み切り、左へ跳び、鬼の形相で圧力を与えてバーの上へと失敗させた。

「タイミングはばっちりだった。読み通り当たったなという感じ。PKのデータは紙で見たけど全然、頭に入ってこなくて、最後は直感を信じてやった」

PK戦前には、96年アトランタ五輪で王国ブラジルを破る、マイアミの奇跡を演じた川口コーチから「お前が自信を持ってやれば、ヒーローになれる」と背中を押された。17年U-17ワールドカップ(W杯)のイングランド戦で、PK戦でベスト16敗退した20歳は「あの悔しさを挽回する機会」と意気に感じた。信じた「直感」は、野性的で炎の守護神ともいわれた、川口コーチが乗り移ったようでもあった。

最大の武器は1対1のシュートストップ。だが、この日の120分間ではニュージーランドの左右からのクロス攻撃に遭い、迷わず前に出てパンチングし、確実にキャッチした。キックを含めすべてに安定感が出てきた。

00年11月22日に大阪・堺市で生まれた谷は、両親から「晃生」と命名された。誕生する約2カ月前、シドニー五輪柔道男子100キロ級で、井上康生(東京五輪柔道男子日本監督)が金メダルを獲得。武道好きの両親が国民的英雄にあやかり、同じ「こうせい」とした。

堺市立原山台小時代はサッカー、柔道、野球の3競技に打ち込むスポーツ万能の少年だった。野球では強肩の外野手で、甲子園球場でジェット風船を飛ばす熱烈な阪神ファン。大好きだった藤川球児のように、今は谷がサッカー界の守護神になった。

父信賢(のぶよし)さん(53)は新日鉄(現日本製鉄)の元応援部所属で野茂英雄の野球部などを応援し、母真由美さん(52)は新日鉄堺の元バレーボール選手で中垣内祐一らと切磋琢磨(せっさたくま)した。両親と親交の深い人たちと同じ五輪の舞台に立ち、改めて気力は充実する。

準決勝のスペインに勝てば、過去最高となる銀メダル以上が確定だ。「絶対にゴールを割らせない気持ちは誰よりも強い。(スペイン戦は)楽しみです」。五輪開催が延期されたこの1年で正GKに成長した守護神が、強運も味方に歴史を変える。【横田和幸】

◆谷晃生(たに・こうせい)2000年(平12)11月22日生まれ、大阪府出身。TSK泉北SCからG大阪ジュニアユース、ユースを経てプロ昇格。20年から湘南へ期限付き移籍。J1通算44試合出場。17年U-17W杯日本代表入りも、19年U-20W杯は肩の故障で落選。190センチ、84キロで守備範囲の広さに自信を持つ。家族は両親と2人の兄。