レセプション、ディグ、オポジット…。これ、バレーボールの用語です。みなさん、分かりますか? 今年は4年に1度の世界選手権開催年。男子は9日(日本時間10日)にイタリアとブルガリアで、女子は29日に日本で開幕します。2年後の東京五輪へ代表選手のパフォーマンスが楽しみですが、テレビで、会場で応援するために、バレー界で使われ始めた新たな用語をしっかり予習しておきましょう。日本協会が7月に発表した「統一用語」も紹介します。【取材・構成=小堀泰男】

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男子日本代表の主将を務める柳田将洋(26)は言いました。「レセプションの精度が上がったと思います。代表でも世界クラスのサーブにしっかり対応できるようにしたい」。今年4月の成田空港。ドイツ1部リーグ、TVインガーソル・ビュールでのシーズンを終えて帰国した際のことです。

「レセプション」で頭に浮かぶのは、ホテルの受付、接待、歓迎会などでしょう。バレーボールとは無関係に思えますが、実はサーブレシーブを意味しています。「reception」には「応対」「受容」という意味もありますから、何となくイメージはできるでしょうか。

1999年、バレーボールにラリーポイント制が導入されました。サーブ権の有無にかかわらず、1つのラリーごとに得点が入るルールです。この改革によって技術や戦術、プレーの質に大きな変化、進化が生まれました。それまでは「レシーブ」でひとくくりにされていたものが、分けて考えられるようになったのです。レセプションに対して相手のスパイク、アタックに対応するレシーブは「ディグ(dig=掘る、小突く)」と呼ばれるようになりました。欧米で使われる用語がそのまま取り入れられ、急速に広まったようです。

女子日本代表・中田久美監督(53)の今年4月の会見でのコメントです。「レセプションアタックは土台、最低限の武器として強化していきます。サーブレシーブがセッターに入らなかったとき、セッターが前衛に出てたときの攻撃について、バックアタックも含めて精度を高めていきたい」。同監督が代表のベースとして挙げたレセプションアタックは、サーブレシーブからの攻撃。これに対して相手のアタックをディグで受け止めて攻撃に転じることを「トランジションアタック」と言います。トランジションとは、1つのラリーの中でボールを扱うチームが切り替わる場面のことです。つまり、バレーボールはサーブから始まり、レシーブ側がレセプションアタックを仕掛け、その後ラリーが続けばお互いにトランジションアタックを繰り返して得点を争うスポーツというわけです。

テレビで「ミュンヘンへの道」「サインはV」「アタックNO・1」を見て育った中高年世代には、「レシーブ、トス、スパイク…ワンツー、ワンツー、アタック~」が精いっぱいですが、Vリーグ、日本代表の監督、選手会見で聞き慣れない用語が飛び交います。しかも、中田監督のコメントのように新旧の用語は混在すると、ちょっと混乱してしまいます。

そんな現状を憂慮したのか、日本協会は7月28日に「バレーボールの統一用語」という資料をメディア関係者に配布しました。その中では「レセプションの使用は推奨せず、サーブレシーブに統一する」とされています。しかし、4年に1度の世界選手権を楽しむには、さまざまな用語について予備知識を仕入れておくことをお勧めします。テレビ中継インタビューで、レセプションやディグ、トランジションは必ず耳にするはずですから。

 

【18歳新星オポジット西田】

男子日本代表に彗(すい)星のように現れたアタッカー西田有志(18=ジェイテクト)は、オポジットとしてレギュラーの座を固めつつあります。今春、三重・海星高の卒業に合わせるように代表に招集され、5~6月の国際大会ネーションズリーグでは、186センチの小柄な体を躍動させて左腕から繰り出す豪打で世界を驚かせました。ところで、西田が務める「オポジット」とは…。

ローテーションでセッターの対角(opposite)に入る選手のことです。オポジットは基本的にレセプション(サーブレシーブ)には参加せず、攻撃に専念します。また、セッターが前衛にいる間は前衛のアタッカーが2人になってしまいますが、オポジットは後衛からバックアタックで攻撃参加し、常にアタッカーが3人いる状況をつくります。

以前はアタッカーのポジションを「レフト、センター、ライト」と表現していました。右利きの選手が圧倒的に多いことから、スパイクを打ちやすい左サイドからの攻撃を担う選手がレフト、ブロック力があって速攻などのコンビバレーの中心になる選手がセンター、セッター対角で右サイドでプレーする機会が多い選手がライトです。

ただ、現在は選手の特性やチーム戦術も多様化しています。そこでレフトとライトをウイングスパイカー(WS)、アウトサイドヒッター(OH)、サイドアタッカー(SA)、センターをミドルブロッカー(MB)、ライトをオポジットと呼ぶようになりました。チームによってはオポジットの代わりに「ユーティリティー」「ユニバーサル」という万能型の選手を起用する場合もあるようです。

これらの呼称は選手の役割と考え、レフト、センター、ライトは選手がプレーするコート上の位置と考えた方が分かりやすいと思います。

なお、日本協会はアジア大会代表発表からアウトサイドヒッターという表記で一本化しています。

 

◆日本バレーボール協会が発表した統一用語◆

【スキル】

スパイク、アタック=ジャンプしての攻撃。2つを併用する

ストレート、クロススパイク=スパイク(アタック)のコース。ラインスパイクは使わない

フロントロー、バックロー=前衛、後衛は許容範囲だが、将来的にはこちらを主流に

フェイント=強く打つと見せかけて相手ブロック後方、横に緩く返球

プッシュ=スパイクフォームから指全体を使ってボールを押し込む動作

ツースパイク=トスをすると見せかけての攻撃の総称

ブロード=ワンレグ攻撃|片足踏み切りでの移動攻撃

サーブ=サーブそのものをサービスとはしない

サービスエース=サーブによる得点はすべて

サーブレシーブ=レセプションは一般的に分かりにくい

トス、セット=2つを併用する

ディグ、スパイクレシーブ=2つを併用する

チャンスボール=フリーボールは使用しない

ブロックフォロー=ブロックカバー、スパイクカバーは使用しない

【役割】

スパイカー、アタッカー=ジャンプして攻撃する選手。2つを併用する

セッター=配球する選手

レシーバー、ディガー=戦略的に呼称が変わるので併用する

リリーフサーバー=試合途中にコートに入るサーバー。ピンチサーバーは使わない

リリーフレシーバー=守備強化で試合途中にコートに入る選手。ピンチレシーバーは適さない

【位置】

レフト、センター、ライト=スパイカー、アタッカーのコート上の位置

アウトサイドヒッター=スパイカー、アタッカーの役割の呼称。ウイングスパイカー、サイドアタッカーは使わない

オポジット=同上

ミドルブロッカー=同上 

【ルール】

タッチネット=ネットタッチは使わない

ダブルコンタクト=ドリブルではなくルールブックに従って統一

キャッチ=ホールディングではなく、ルール用語に従って推奨

 

<こんな用語も>

◆スパイクとアタック スパイクとはネットの近くから強烈なボールを打ち込んで得点を狙うこと。スパイクに限らず、相手コートのオープンスペースにやわらかいボールを落としたり、コースやタイミングを変えて得点を狙うことを総称してアタックという。

◆テクニカルタイムアウトとチャージドタイムアウト テクニカル-は第1~第4セットまでで、どちらかのチームの得点が8点、16点に達したときに自動的に取られるもので、時間は60秒。チャージド-はチームの監督が要求して各セット2回ずつ取れるもので時間は30秒。

◆ブレークとサイドアウト ブレークはサーブ権を持っているチームが得点すること。逆にサイドアウトはレセプション側のチームが得点すること。バレーボールは2点以上の差がつかないと決着しないから、どちらかのチームがブレークしないと勝負がつかない。

 

■世界選手権 女子は日本開催

五輪中間年の今年、バレーボール界の頂点に位置する世界選手権が行われる。女子は銅メダルを獲得した10年以来2大会ぶりの日本開催で、9月29日の開幕。就任2年目の中田監督は「20年東京五輪へ向けてメダルを狙っていかなければならない」と目標を掲げる。

世界ランク6位の日本は5~6月の国際大会ネーションズリーグで7勝8敗の10位。今月2日に閉幕したアジア大会ではタイ、中国、韓国に敗れて4位にとどまった。両大会を通じてエース候補・黒後の戦力化には成功したが、左膝負傷から復帰した長岡の決定力、コンビプレー、ディフェンスなどの課題克服へ開幕まで強化を図る。

男子はイタリア、ブルガリア共催で女子に先駆けて9月9日(日本時間10日)にスタートする。日本は世界12位で、ネーションズリーグでも6勝9敗で12位だった。中垣内祐一監督(50)は「厳しいグループに入ったが、1次突破を第1目標にベスト8相当が目標」。代表デビューしたばかりの西田がオポジットとして機能し、腰と膝の故障が癒えたエース石川も7月末に戦列復帰。主力はアジア大会に出場せず、フィンランド合宿から4日にイタリア入りした。