19年世界選手権王者の文田健一郎(25=ミキハウス)が決勝進出を決め、メダルを確定させた。1回戦から3試合を勝ち抜いた。準決勝では18年世界選手権銅メダルのウクライナ選手を5-1で下した。2日に行われる決勝で金メダルを狙う。

これにより、レスリングの男子日本勢は52年ヘルシンキ大会から17大会連続でのメダル獲得となった。「近年女子が活躍しているけど、男子もずっとメダルをつないできている。自分もつながなきゃという気持ちは大きくありました」と安堵(あんど)の表情を浮かべた。

代表の座を競い合った16年リオデジャネイロ五輪銀メダリストの太田忍に最高の結果を報告したかった。5年前、練習パートナーとして帯同したブラジルの地で、日体大の先輩の雄姿を会場のアップ場のテレビで見ながら思った。「僕がここにいたらどういう風に戦えたのかな」。悔しさが芽生えた時、本気で五輪を目指す決意が固まった。そのためには太田を倒さなければならなかった。

一進一退。17年の世界王者となったが、国内の選考争いでは最後まで競った。19年6月の全日本選手権決勝で太田を下し、世界選手権代表を決め、その大会で優勝を飾り五輪代表をつかんだ。決勝前、63キロ級で出場していた太田が、「やってやるよ」と声をかけてくれた。相手のクセや攻略方法などを徹底して伝授してくれた。

伝授はこの大会の前にもあった。日体大の練習場までわざわざ出向いてくれ、2日間、肌を合わせた。「やっぱり強いな。戦い方、技の切れ、全然変わってない」。助言も的確だった。ハッとさせられた。「感謝してます。世界での戦い方はあの人からほとんど教わった。世界で勝つために必要なことはあの人から教わった」。昨年総合格闘家に転向した先輩に届けるのは、金メダルしかない。

12年ロンドン五輪、高2の文田は「格好いい、格好いい!」と興奮して連呼した。現地で父敏郎さんの教え子だったフリー66キロ級の米満の優勝を目撃した。「全員が熱狂して、注目されている中で戦っている米満先輩。レスリングのイメージが国内とは全然違う」。衝撃だった。直後に金メダルを触らせてもらった。それから9年。今度は自分でその輝きを手にする。