前回はフランスとカタールの政治的な関係性とフットボールの関係性について書かせていただきました。いよいよFIFAファイナンシャルフェアプレー(FFP)の判定が下される時が迫ってきておりますが、パリサンジェルマン(PSG)、ユベントスは政治的な部分からうまく逃れることが予測されます。

その影でPSG、ユベントスのような政治手法を駆使することなく手を引くとされているクラブがあります。日本企業がメインスポンサーでもあるチェルシーです。

今回はイングランドに拠点を置くクラブとオーナー会社であるロシアの関係性をベースに最新の動向を追ってみたいと思います。

以前からサッカーはお金で買えるものではないですとか、サッカーに政治(ここでの政治は全記述の政治とは異なり、国の政治などを指します)を関与させてはいけないなどとはよく耳にするものですが、実際のところどうなんだ?という気持ちにさせられることもしばしばあります。

2003年に突如現れたロシアの富豪、アブラモビッチ。そこから彼の財力を持って勝ち取った数々のタイトル…このあたりはもう皆様の脳裏にも焼き付いていることと思いますが、そのチェルシーに異変が起きています。

きっかけはやはりFFP。ワンオーナーによるクラブの赤字補填(ほてん)行為が基本的には禁じられました。ここから、オーナーもしくはオーナーによって経営されているワンマン企業のスポンサードには当然UEFAは目を光らせます。

以前もチェルシーとアブラモビッチの状況には触れましたが、その後、新たに動きがありました。この動きは昨年4月に英国で起きた、ロシア人元二重スパイ襲撃事件と関係しているとされます。ロシア政府が事件への関与を否定する一方でテレーザ・メイ首相や英国政府はロシア関与の可能性を指摘。ここから一気に両国間の関係が悪化したわけなのですが、そのような中、まるで見せしめのように、在英ロシア人富豪に対する締め出しを実施しました。

実は同時期に裏で投資家ビザ更新を申請していたアブラモビッチはこの許可が下りず、最終的には申請を取り下げたとのことでした。つまり、アブラモビッチも英国から半ば締め出された形になってしまっているのです。

どうやらこの状況を乗り越えるためにイスラエルの市民権を取得したようですが、細かく言えばビザ不要で最長6カ月間の滞在しか認められず、さらに就労も許可されない状況です(取得したものは単なる観光ビザと変わらない)。

つまり、完全に締め出されている状況において、アブラモビッチサイドにしてみれば“今まで英国に巨額のお金を落としてきたのにそのような扱いを受けるとは”という思いもあるでしょう。まるでスペイン政府の対応に嫌気をさしたクリスティアーノ・ロナウドと同じように見えます。

火のない所に煙は立たないのですが、どうやら現地ではアブラモビッチがすでにチェルシー売却に向けて動いている様子も報道されており、その金額は2800億円とも2900億円とも言われております。

資産家のワンオーナーに助けられてきたにもかかわらず、それを切ろうとするサッカー界の動きの裏には、なんとか均衡を保ち(競争力を保ち)、独り勝ちを避けるという目的があるものの、お金のあるところには政治が絡み、そして多くの利権が絡んでいる様子が見て取れます。

昨今、最高のエンターテインメントとして全世界を巻き込む力を持ってしまったフットボール。アジア・日本がこの巨大エンターテインメントに挑む日は来るのでしょうか。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)