かつての名ストライカーが生みの苦しみを味わっている。
日本フットボルリーグ(JFL)所属のクリアソン新宿(東京)が、開幕から3試合を終えて未勝利(1分け2敗)となった。しかも3試合連続の無得点というまさかの事態だ。
■J公式戦367試合84得点ストライカー
今季から指揮官を執るのは北嶋秀朗監督(45)。コーチから昇格し、自身初の監督業だ。
現役時代は点取り屋として名を馳せた。千葉・市船橋高時代に全国選手権で2度の優勝を経験し、得点王も獲得。12年半在籍した柏レイソルでJ1優勝も果たし、2000年のアジアカップなどで日本代表に選出された。
清水エスパルス、ロアッソ熊本でもプレーし、17年に及ぶJリーグ生活で公式戦通算367試合84得点。華やかなキャリアを持つ指揮官ゆえ、その手腕が注目されている。
クリアソン新宿はJ3クラブライセンスを昨年に取得しており、来季のJ3所属には今季JFLで2位以内が絶対条件となる。優勝なら自動昇格、2位ならJ3最下位の20位チームとの入れ替え戦に勝てば昇格が決まる。
期待の表れとなった3月10日の沖縄SV相手の開幕戦(駒沢陸上)は3585人もの観衆を集めたが、試合は想定外の0-4という完敗だった。立ち上がりから主導権を握り、好機をいくつも作りながら得点を奪えず、逆に守備のスキを突かれる形で失点を重ねた。
17日の第2節ヴィアティン三重戦も0-4と完敗した。アウェーでボールを握り主導権をつかんだが攻めきれない展開が続いた。前半にPKを得たが、Jリーグでも実績あるFW小池純輝が決められず、流れを相手に渡してしまい、開幕戦に続いて失点を重ねた。
そして23日の第3節ラインメール青森戦も、あらためて得点力という課題が浮き彫りになった。
前半31分に相手選手が退場処分を受け、早い時間帯で1人多い状況となった。ゴール前を固める青森に対し、終始ボールを握り、両サイドの幅を使って攻め込んだ。だが好機となりそうな場面でコントロールミスが出るなど、もどかしいプレーの連続。相手の厳しいディフェンスもあり、最後までゴールを奪うことはできず、痛恨のスコアレスドローとなった。
■情というものを捨てていかなきゃ
チームは東京ヴェルディなどで活躍した小池をはじめ、Jリーグでの経験のある選手も加わり、昨年よりも厚みを増している。それが蓋を開けてみれば、3試合を終えて勝ち点1、総得点0の総失点8で16チーム中15位と出遅れている。
この結果に、北嶋監督はあらためて監督業の難しさを実感している様子だった。手をこまねいているわけではない。先発メンバーも過去2戦から入れ替えた。青森戦も試合の状況に応じて手を打ち、ゲームを動かそうとしていることは見て取れた。
「相手が後半は(DFラインを3枚から)4枚にしてきたので、外側のスペースに速い選手を入れた。長いボールを使いながら、ドリブルが得意な選手がいるのでボールを運んで攻めさせようという意図で考えた中でした。ただ、それが一辺倒になりがちで。それと、そこにボールが行った時にクオリティーが低かったりとか、そのへんは課題があるかなと思います」
「相手が真ん中を閉じて、だから外にスペースがあるという認識だったんですけど、配られた球にアプローチを受けて個人的なミスとか、トラップミスとか。そういうのがもったいなかった。そこでボールが落ち着かなくていい攻撃につながらなかった」
思い描く通りにボールは転がらない。だからサッカーは難しい。そして北嶋監督のベクトルは選手よりもむしろ、自分自身に向けられていた。
「うちの選手たちは何か崩れたりする男たちじゃないので、一生懸命やってくれる男だから。信用しているし、チームとしてもそういうところには心配してない。だからこそ彼らを勝たせてあげる責任があるし、そうしてあげられないことが申し訳なくて。そこの思いは強いです」
「いろんなものを決めなきゃいけない中で、情というか、そういうものが強い人間なんだなとあらためて感じています。そういうものを捨てていかなきゃいけないと強く思っていて。自分が本当の意味で監督にならなければいけない。自分の甘さみたいなところを消さなきゃいけないと考えています」
■頼りにされるがゆえ苦しむ小池
再びピッチに目を向ければ、チャンスはつくれていただけに、決めるところで決めれば1-0という結果には持ち込めた内容だった。それだけに得点力という課題が浮き上がってくる。
はたから見ても、最も頼りにされるがゆえに小池が苦しんでいるのは明らか。ベンチスタートとなった青森戦でも終盤、縦パスから抜け出したと思われたシーンでコントロールミスし、ハンドで決定機を逃していた。
当の小池に話を聞くと、「うまくいっていないのは、これまでもありましたので、自分でかみ砕いてやっていくしかない。責任を感じている部分はあるんですけど、それを引きずってやってもしょうがない。1つのゴール、1つの勝利が劇薬じゃないですけど、そこを勝ち取れるかどうか。そういうところをつかみにいかないといけない」。
自らに言い聞かせるように話した。
■弱い自分に打ち勝つには練習しか
ならば名ストライカーは自身が得点できない時の苦しみとどう向き合い、どう乗り越えてきたのだろうか。北嶋監督はまず、FWとしての気概から口にした。
「決められないとなっている選手は重責、十字架を背負っている。そこは自分で乗り越えるしかない。チャンスがないわけじゃなくて、チャンスがあって決められないとなると、そこは自分が乗り越えるべき課題で、そういう重責がFWにはあるから。そこを乗り越えたら、高いお金がもらえるポジションだと思うんですよね。上のレベルに行けば、点を取れなければたたかれて、もっと苦しい思いをしなければいけないポジションがFWなんです」
さらに、こう続けた。
「(ゴールを奪うためのチームとしての)仕組みはもっと何とか整理してあげようという思いがあります。ただメンタルのところは自分が、そこは覚悟を持つしかないですよね。覚悟をどれだけのものが持てるのか。ちょっとビビっているとか、足が振れないとか、そういう弱い自分に打ち勝つ方法は練習しかない」
■ゴールはケチャップみたいなもの
勝負強さで鳴らした本田圭佑が「ゴールはケチャップみたいなもの」と表現した通り、1つのきっかけで「ドバドバ出る」状況へと変わるのが不思議なところ。長いシーズンを考えれば、最初に取り組むべき課題、膿(うみ)を出せたと思えば、次につながるものだとも言える。
どこか最近の春先の気候と重なる。ぐずつき、三寒四温を繰り返し、じわじわと春本番へと向かっていく。いつも前向きなクリアソン新宿の丸山和大社長は「まずは1歩(勝ち点1)出ました、ここからです。昨年もそうですが、このリーグは大混戦ですからね」。
大都会・新宿を拠点にさまざまな課題を乗り越え、クラブを成長させ続ける異才の経営者。その言葉は、どこかチームを明るい気分にさせてくれる。
もうすぐ桜が咲く季節。歩調を合わせ、北嶋監督率いるクリアソンも春満開となるか。サポーターはケチャップを手に、その時を待ちたい。【佐藤隆志】