国際サッカー連盟(FIFA)が9月18日に最新のランキングを発表し、スペインが2014年6月以来、11年3カ月ぶりに1位へと返り咲いた。
■33試合で27勝3分け3敗
ルイス・デラフエンテ監督(64)が22年12月に就任して以降、33試合を戦って27勝3分け3敗。多彩なタレントが織り成すパスサッカーの組織美、そこへラミン・ヤマルのような突出した個が絡みハーモニーを奏でる。
昨年の欧州選手権(ユーロ2024)を制しており、24年3月22日のコロンビア戦を最後に1年6カ月も負けなし。ちなみに今夏の欧州ネーションズリーグ決勝でポルトガルに2-2からのPK戦で屈しているが、これは記録上引き分け扱いとなっている。
加えて女子のFIFAランキングでもスペインは8月7日発表の前回以降、1位をキープする。つまり男女そろって「世界一」と格付けされた。
さらに国内を見ても、スペイン出身のリカルド・ロドリゲス監督率いる柏レイソルがJ1で優勝を争っている。スペインサッカー復権を感じずにはいられない。
そこでスペインサッカーについて学びたい、となればリーガ・エスパニョーラを知り尽くすS級指導者で解説者の幸谷(こうたに)秀巳さん(62=YSCC横浜アカデミーダイレクター)に話を聞こうと思い立ち、会いに行った。
幸谷さんは今から33年前の1992年にサッカー指導者を目指し、言葉もしゃべれなければ何の縁や情報もない中でスペインへと渡ったパイオニア。スペインサッカー協会への直当たりから始め、さまざまな壁を乗り越え、プロライセンス「レベル2」まで取得した。
何より94~99年の6年間、名門アトレチコ・マドリードのアカデミー(ジュニアユース、U-19)で監督やコーチを務めた希有なキャリアの持つ。そこはライセンス取得のため通っていた学校に、Aマドリードの選手ら関係者がいた縁からつながったのだという。
そこでスペイン代表のエースとなったフェルナンド・トーレスも指導したことはよく知られるところ。かつての教え子たちはプロ選手を経て現在、さまざまな場所で指導者として活躍する。例えば、スペインU-14代表を指揮するダビド・クビージョ監督(47)もその1人である。
■賢人ルイス・アラゴネス
まずはスペインの1位返り咲きについて。幸谷さんは「必然の結果だと思います。今のスペイン代表は強いチームです。調子が良くても悪くても我慢強くプレーをし、勝ち切ります。これはルイス・アラゴネスが持ち込んだ自信、勇気と信頼を持って試合に臨むということを継承している結果だと思います」。
ここで名前が上がったのがルイス・アラゴネス(2014年に75歳で死去)。08年のユーロでスペインに44年ぶりの優勝をもたらした時の指揮官であり「El Sabio(賢人)」と呼ばれた希代の名将だ。その土台を引き継いだビセンテ・デルボスケ監督のもと、10年ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会、12年にユーロとビッグタイトルを手にしている。
そんな無敵艦隊のベースを築いた「賢人」は、幸谷さんがAマドリードのアカデミーで指導していた時のトップチームの監督だった。トップチームの戦い方がそのままアカデミーでも採用されるのがスペイン流。一心同体の師弟関係にあった。
こんな逸話が残っている。気むずかしく単独インタビューは受けつけないアラゴネス監督が、日本からやって来た幸谷さんの取材には親しげに応じた。その光景を見た現地メディアが「あの日本人は誰だ?」と驚きを持って報じたほどだ。
「私が一番最初にサッカーを教えてもらったのがルイスでした。彼とは“ツーカー”で、練習場で色々と話ができました。スペインが“無敵艦隊”に変わったのは完全にルイスの功績だった。精神的な問題から何か何まで変えた。基本的にものすごい厳しい人なんですよ。だけどお父さんというかおじいちゃんみたいな歳じゃないですか。規律はすごく守る、でも大人として扱うが一つ。そしてルーズなことはゲームの中でも許さなかった」
今でも一番最初にアラゴネス監督から言われたことが忘れられないという。
「あなたのサッカーの哲学は何だ? って聞いたら、何言ってんの? サッカーは攻撃と守備しかねえんだよって。それに全部集中して11人が全員動かなければいけない、それができるかどうかだって。あとはすべてのポジションにどういうプレーが必要だとか、どういうことをやらなきゃいけないだとか、というのを(選手に)分からせなければいけない」
所属チームを持っている時は「分からせる」ことが求められる。一方で代表チームを持った時は「そこをできるやつを呼ぶしかない」。継続的な活動と単発的な活動では当然、指導スタンスも変わる。
GKは信頼するGKコーチに任せるとして、それ以外の10個のポジションについて、とことん突き詰めていたという。
「自分がやるシステムによって、頭の中でこのポジションはこの選手が必要だと、ものすごく(情報を)入れている。それができるかどうかをずっと1週間観て、できるやつしか選ばない」
■シメオネも引き継ぐ言葉
日本では先発メンバー11人を固定する傾向がある。一方でヨーロッパのビッグクラブなどでは目まぐるしくメンバーが変わる。
「ローテーションってこっち(日本)の人は言うけれど、そうじゃない。(ギリギリまで見極めて)理解できている選手を使う。人間だから良い時と悪い時があるからな、ってはっきりと言っていました。その週の練習でよく理解できているかどうか。今の(Aマドリード監督の)シメオネが1試合ごと、1試合ごとって言うのが引用されるけど、あれはルイスの言葉ですよ。シメオネはルイスの下でやっていましたから。同じことをやっている。だからあれだけアトレチコで長くやれる」
ふと話はルイス・アラゴネスから現Aマドリード監督のシメオネへ。11年から監督を務め、15年目に突入している。
「自分が長くやろうと思えば、選手を変えるしかないんですよ。だからどんなに良い時でも選手の入れ替えが激しい。スペインのチームって優勝しようが何しようが選手の入れ替えが激しい。理解できる選手を連れてくる。たまにマッチしない選手もくる。だけど理解できなければしょうがないから、次の年は違うところに行ってもらう」
まずクラブの哲学や方針に沿う監督がいて、そこからチームが作られていく。世界的スター選手でも、監督の頭の中とシンクロできなければ戦力外となる。サッカー大国のエッセンスを感じ入るには十分なコメントだった。
■ペップはストッパーだった
スペインサッカーを語る上でシステムは外せない。その源流としてヨハン・クライフ監督時代(1988~96年)のバルセロナの3-4-3に行き着く。91-92年に欧州チャンピオンズカップを制している。そのチームはグアルディオラを中盤の底の「4番」に置き、中盤はダイヤモンド型。その前に両ウイングを配置した3トップ陣形だった。
ボールが回りやすいトライアングルを各局面でつくれる並びだ。3点取られても4点、5点を取り「美しく勝つ」攻撃サッカーがコンセプトとしてある。そのチームで“ヘソ”を司るのがグアルディオラだった。
そこで幸谷さんからこんな指摘が入った。
「クライフがバルセロナをやっている時、みなさん3-4-3だと思っていた。だけど違う。クライフはあれは3-4-3じゃないって俺に言いましたからね。クライフはこれは4-4-2だって。真ん中にクーマンを置いたら右にフェレール、左にセルジ・バルファン。ペップ・グアルディオラをその前に置く。こいつはストッパーだった。みんなペップをボランチだと思っているけど、あれはストッパー。だからバルセロナで一番、カードをもらっているのはペップなんです。前に置いたセンターバックです」
■面識ないクライフと談義
中盤にバケーロ、ベギリスタインらがいて、前にストイチコフ、ラウドルップ、ゴイコチェア。その最前線からラウルドルップが相手マーカーを引きつけて降りてくる。意図的に「9番」がいない状態を作り出し、空いたスペースへ両ウイングが斜めに走り込んでいく。そこへ最後尾から1本でパスを通せるクーマンがいる。
「それでもう1点じゃねえかって。クライフは本当にそれしか狙ってないとまで言っていましたから」
ここまで言ったところで、クライフ監督は知り合いではないと明かした。
1990年代にチームの休暇中、バルセロナの本拠地カンプノウを訪れた。隣の練習場にいたクライフ監督の姿を見つけ、自己紹介したら向こうから歩み寄ってきた。思いがけず、しばしのサッカー談義になったのだという。現在のようなセキュリティー上の閉ざされた空間ではなく、当時はどこもオープンだった。
何よりサッカーを学びたいという貪欲さがあったからこそ。こういう何物にも替え難い経験の積み重ねが血となり肉となり、誰かの受け売りではない“リアル”なスペインサッカーへの知見が出来上がった。
■ポジションの役割教える
あらためてスペインサッカーの真髄とは、エッセンスとは何か?
「スペインサッカーって両サイドは必ず1対1の勝負から逃げない。センターFWは得点を求められるけど、リーグ戦でシーズン2桁取れればいい。要は点を取ることも必要だけど、おとりになることも必要なんです。ポジションによっての仕事をうまく教えられる。ラウルっていう7番、その前の時代のブトラゲーニョという7番が、なぜ得点を複数取れるかというのがそこにある」
育成年代からそれぞれのポジションの役割について教えるのだという。伝えることができる指導者はアカデミーを経てトップチームの監督につながっていく。あとは各クラブでどのポジションを育てるかというのが、ある程度決まっているそうだ。
「バルセロナでセンターFWは育たないでしょ。いつも外国籍選手か、バスク(地方)の方から取ってくるとか。センターFWが育つのは、ビルバオかレアルかアトレチコしか育たないんですよ」
ご存知の通り「ティキタカ」のバルサはアカデミーから徹底してつなぐ。クロスが上がらないからストライカーは育たない。クラブによって指導方針は異なり、カラーが出てくる。
「ビルバオだったら、ポジションによってこのプレーが必要って教えていく。外から上げる選手がいて、中で合わせる選手がいればうまくなっていく。レアルにしてもアトレチコにしても、サイドの選手は抜き切らないで上げてくる。だからどういうふうにトレーニングするか教えてもらって、上げてきたボールに中が合わせにいくんだという感覚だから、ストライカーが育つ。ワンタッチのシュートがうまくなるんです」
他ではドリブルならベティス、セビージャ。ファンタジスタが多いのはカナリア諸島。バルセロナに所属したペドリがそうだ。「島国だから下手にボールを蹴ったら海に落ちる。そういう所もある。(島の)ど真ん中ならいいですよ」。
■技術を上げるならクレー
さらに意外な視点が飛び出した。環境面についてだ。技術、判断を磨く上で「土(クレー)のグラウンド」が向上するのだという。容易にコントロールができてしまう人工芝グラウンドが増えたことで、技術は下がったとまで言い切る。イニエスタがいた時のバルサのアカデミーは土だったと証言し「土だと離すタイミングだとかうまいし、テクニックも上がる」。
ただ温暖化を助長する人工芝はヨーロッパでは問題視されており、環境問題への関心の高さもあって今後はアカデミーはクレーコートへの回帰が強まるという見方があるそうだ。
■「自信、勇気と信頼を」
気が付けば、文字通りあっという間に2時間が過ぎていた。書き切れないほどの戦術論、自身の数々の経験談に交流録まで。
例えば2年前に63歳の若さで亡くなった元スペイン代表のマルコス・アロンソ・ペーニャさんは、指導者ライセンス取得を目指し苦楽を共にした時代から長らくの友人だったという(息子も元スペイン代表マルコス・アロンソ・メンドーサ)。どの話もスペインへの深い愛情が感じられる話ばかりだった。
大柄でないスペインが世界1位に輝く。フィジカルに頼った戦い方でなく、技術と戦術を磨き、組織力で上を目指す日本代表にとってもどこか共感が持てるものではなかろうか。
「ルイス・アラゴネスが持ち込んだ自信、勇気と信頼を持って試合に臨む。このことが日本代表にもできればと思います」
未来の日本代表の姿を重ね、大きくうなずいた。【佐藤隆志】
◆幸谷秀巳(こうたに・ひでみ)1963年(昭38)5月7日生まれ。岡山県出身。国士舘大では元日本代表の宮澤ミシェルさんと同期。学生時代は読売クラブのスクールでも指導した。スポーツ用品メーカーのモルテン勤務などを経て92年5月にスペインへ渡る。94~99年まで名門Aマドリードのアカデミーで正規コーチとして指導に当たった。外国人ビザの障壁もあり99年に帰国。スペインリーグの辛口解説者として人気を集め、千葉・習志野高やJクラブなどで育成コーチを務める。05年にS級指導者ライセンスを取得。08年に当時JFL昇格のアルテ高崎の監督も務めた。現在はJFLのYSCC横浜アカデミーダイレクター。













