シーズンの大詰めになり、J2アルビレックス新潟がようやく力を発揮し始めている。鈴木政一前監督(63)の解任後、片渕浩一郎監督(43)が代行を経て、ヘッドコーチから正式に就任。その3試合目の第32節FC岐阜戦から4連勝(第35節終了時)。

この時点で順位は17位。J1自動昇格圏の2位以内、J1参入プレーオフ参戦の6位以内は厳しい状況だが、豊富な運動量、攻守の切り替えの早さ、粘り強い守備と、求めていた新潟らしさが表れてきた。最終結果がどうなっても、今の内容は来季につながるものだ。

「彼は必要不可欠な存在」。片渕監督は、好調の中心にいる選手を絶賛している。FW田中達也(35)のことだ。プロ入り18年目、浦和レッズから新潟に移籍して6年目のベテランは、第30節からスタメン出場中。4連勝の間も、試合開始からピッチに立っている。

キックオフから労を惜しまず、前線からプレスをかける。ピンチには自陣ゴール前まで戻って守備。そこで味方がボールを奪うと、今度は相手ゴールに向かって走る。得点はここまで1点。ただ、「それ以上に達也のプレーはチームに貢献している。やるべきプレーをしてくれる」と片渕監督。「全力」「一生懸命」。こんな表現がぴったりなプレーは、ひたむきさがストレートに胸に響く。

シーズン序盤はベンチスタートがほとんど。5試合続けて出場機会がなかった時期もあった。ただ、出場が続いている今と当時と、田中の姿勢は変わっていない。練習では声を出し、ときにはチームメートを厳しく叱咤(しった)。「気づいたことは、言うようにしている。僕にも言ってほしい」。当然、メニューは全力でこなす。

日々すべてを注いできた。だから、状況が変化してもスムーズに力を発揮できる。求められること、やるべきことを、淡々と手を抜かずにやり抜いてきたベテランが、今、チームの中心にいる。「チームのため。勝てばいい」。こんなベタなせりふも田中が言うと、重みが違う。【斎藤慎一郎】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)生まれ、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。サッカー以外にはバスケットのBリーグ、Wリーグ、野球、アマスポーツなどを担当。